Fahrenheit -華氏- Ⅲ
食事を半ば過ぎると、
「ここ、隣いいですか?」と声を掛けられ、ほとんど何も考えず
「ええ、どうぞ」と答えたのはいいけれど、その声の主が
瑞野さん―――
で、思わず目をまばたき、そして辺りを見渡すと、ちょうど昼時なのか食堂は混雑していて空いている席を見つけるだけでも一苦労と言う状態だった。
敢えてわざわざ隣を選んだ、と言うわけではなさそう。
瑞野さんは恐縮したように
「すみません」を繰り返し、あたしの隣に腰掛ける。
瑞野さんのトレーにはカレースパゲッティが乗っていた。あたしもここのカレースパゲッティは好き。と言うより一番おいしい。(他はイマイチだけど)
「こないだ、パーティで柏木補佐と入れ違っちゃったみたいで……誘っていただいたのにお礼もできず、ごめんなさい」と瑞野さんが律儀に頭を下げる。
「いえ、お誘いしたのは部長と綾子さんで、私は何も」
いつも通り、そこに何の感情もなく淡々と言うと
「あ…はい」と瑞野さんはあたしのペースに慣れていないのか恐縮したように身を縮こませる。
サンドイッチの三分の一は食べ終わったものの、急に食欲が失せた。
「佐々木さん、すみませんが私はこれで」と言って立ち上がると
「え?もう?」と佐々木さんが目を丸め、その視線に『残ったサンドイッチどうするんですか!?』と物語っていたように見えた。
その視線に
「佐々木さん、卵サンドとツナサンドはお好きですか?」と聞くと
「あ、はい。好きですけど」と目をきょとんとさせ佐々木さんが頷き
「ではこれを差し上げます。どうぞごゆっくり」と言い、今度こそ野菜ジュースだけを持ったまま立ち去った。
「ま、待ってください~~!」
と、佐々木さんの声が追ってきたけれど、その声は賑わう食堂の中でかき消された。