Fahrenheit -華氏- Ⅲ
会長お抱えのハイヤーが料亭の前で止まり、
「Mrダリス、どこへお送りすれば宜しいですかな?」とおじ様がジェイクの顔を見ると、ジェイクはにこやかに笑って
「Miss Kashiwagi will take me to the hotel where I am staying. She and I go way back, so we have a lot to talk about.
(miss柏木に送ってもらいます。昔馴染みなので積る話もある)」と彼が言い出し、あたしは軽く額を押さえた。
「You're the one who wanted to go to the Maruna Hotel, didn't you?
(君がマルーナホテルに行きたいって言いだしたんだろう?)」とジェイクに聞かれ
「Yes.(ええ)」あたしは頷き、
「私が送っていきますのでご安心を。会長は先に戻ってください」
「そうか、君が一緒なら安心だな。じゃぁお願いするよ」とおじ様は運転手さんが扉を開けていた、その中へと消えていった。
車が発車する。
店の人に頼んでタクシーを一台手配してもらい、それを待っている最中、ちょうど昼の会食を終えたのか見知らぬ初老の男性二人組がほろ酔い加減で出てきた。大方どこぞの大企業の役員と言うところか、彼らは陽気で声も高らかに
「今日もありがとう!」と言って女将の手をきゅっと握っていた。ふらふらした足取りで迎えに付けさせたハイヤーに乗り込む際、あたしの脇を通り抜けようとしたときによろけた。
危うくあたしとぶつかりそうになったときだった。
ふわり…
ジェイクがあたしの肩を抱き寄せ、その初老の男性との衝突を避けた。
「ああ、失礼」初老の男性はへらへらと笑って、酔っているのだろうかあたしに握手を求めてきたが、それよりも早くジェイクがその男性と握手。
「Sorry, This lady here is mine.(失礼、こちらのレディーは私のもので)」と英語で言うと、その男性は目をぱちくりさせ「お、Oh、サンキュー!」と返答にならない返答でそそくさとハイヤーに乗っていった。
助けて―――くれた……?