Fahrenheit -華氏- Ⅲ

いそいそとバッグを手にすると


「It's a shame.(そっか、残念だな)」ふとジェイクの顔が近づいてくる気配があった。


ふわりと顔に息がかかる距離まで詰められて、しかしあたしはジェイクの顔を手で押し戻すと


「I won't play into that hand. The answer is no.(その手には乗らないわ。答えはNo、よ)」


早口で言うと、ジェイクは目をまばたいた。長いまつ毛が揺れる。


だがしかしジェイクはそこでそこで引き下がらなかった。


あたしの両手を掴み上に上げさせる。


しかしそのまま顔を押し付けてきようとする気配はなく


「Ruka, I want to start over with you. That way, this business will always work.
(瑠華、君とやり直したい。そうすれば今回のビジネスは必ずうまくいく)」と至極真剣な口調で言ってきた。


ふいっとあたしは顔を逸らし


「It's a shame. I am not willing to sell my heart to you.(残念ね、心まで売る気がないの)」

Because you're a terrible kisser.
(だってあなたキスが下手だもの)」




ふっと笑って、完全に路肩に停まったタクシーから一人降り立つ。


「Bey, I’ll keep my fingers crossed.(じゃね。成功を祈ってるわ)」


ジェイクは笑いながら小さく舌打ち。


「You're so boring. You used to be so easily swept away.(つれないな。昔の君は流されやすかったのに)」


「That changed when I married Valentine.(ヴァレンタインと結婚して変わったのよ)


Now I stand alone and don't trust anyone to help me.
(今のあたしは一人で立って、誰かの手を借りても信用することはない)



Besides, I'll tell you one last thing.
(それに最後に一つだけ言っておくわ)


Kanna Keito more than Valentine, more than you, more than anyone else.
(神流 啓人はヴァレンタインよりもあなたよりも、誰よりも)



He's a good kisser.
(キスが上手なの)」



チュ


軽くリップ音を鳴らして投げキッスをすると、ジェイクはまたも声をあげて笑い、タクシーの扉はしまった。


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