Fahrenheit -華氏- Ⅲ


タクシーが遠ざかるのを見送って、あたしは逆戻り。


ここがどこなのかイマイチ分からない。電車の駅を探すよりもタクシーを拾った方が早いだろう。


運よく通りかかったタクシーに乗り込み、あたしとジェイクは完全に逆方向へ向かった。


さっき分かった。


ジェイクの―――心の根底にあるのは




きっとお金じゃない。




お父さんに対する、恨み、妬み、そして尊敬―――受けられなかった愛情の渇望。


彼は愛人の子であると言う誹謗を生まれながらにしてずっと受けていたに違いない。しかし自分の血を受け継ぐよそ者が誰よりも優秀だったら―――?


ジェイクがあたしに協力してくれるのは、彼が父親を超えたいと思うから。


嫌悪は感じている、けれど尊敬はしている、けれどそれ以上の存在になりたい―――


一言では言い表せない、きっと複雑な感情なのだ。


五年以上経った今、初めてそのむき出しの感情を知ることができた。



社に戻る途中、心音に電話をした。


時差を計算すると、向こうは夜中の1時ちょっと。


また間の悪い時に電話を掛けることになってしまったが、相手は運よく電話に出た。


『ハッロ~!』とテンションも高め。と言うことは今日も徹夜で仕事中と言うことか…


「忙しい時にごめんね、話しておきたいことがあって…」


『ああ、うん。ちょっと待って』心音は小さく言って冷蔵庫から何かを取り出す小さな音が聞こえ、そしてプシュっとプルタブを開ける音が聞こえてきた。


一仕事終えてビールでも飲むのか、と思ったが


『エナジードリンク。これからまた一仕事』と言い、ごくごくと喉を鳴らす音が聞こえてきた。


「忙しい時にごめん」再度謝ると


『いいわよ、どうせCCと手を組んだ、って言う報告でしょう?』


「どうして―――」


あたしが目を開くと、心音は喉の奥で何かが絡まったような苦笑を漏らし


『あたしを誰だと思ってンの?心音サマよ?』


「そう、なら話は早い。報告だけしておきたかったの。ちょっと遅くなっちゃったけど」


『気にしないわ。それよりあのハゲタカファンドをどうやって丸め込んだの?


まさか―――



寝た?』



低く聞かれ、あたしは小さくため息をつき額に手をやった。


「まぁね、5.6年前に数回」


『Wow.』心音は軽蔑するかと思いきや、どこか楽しそうだ。『元彼ってこと?』


「元彼……なのかあれは。マックスと付き合う前の話だし、二か月で終わったわ」


『出会いはどこで?』心音はワクワクと聞いてきて


「大学の……構内…」こんな話するつもりなんてなかったのに。大体五年以上前の恋愛話なんて時効だ。


『Oh、Shit!』心音は大きく舌打ち。


「ごめんなさい、あなたに報告しないで…」


しかもそのたった二か月の、短い付き合いを利用してまで、ハゲタカファンドを頼るあたしに失望したかもしれない、心音は。


『あたしもNY大学行っていれば声が掛かったかもしれないってことよね!!どうしてコロンビア大学にしちゃったの!』


そっち…??


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