Fahrenheit -華氏- Ⅲ
何か急用なのだろうか。
瑠華は五分も満たないうちに帰ってきて
「すみません、急な用ができてしまって。私は今日失礼しても宜しいでしょうか」
「いいよ、今は急ぎの案件も抱えてないし」俺が言うと瑠華はちょっとほっとしたように、空いた缶ビールを手にコートを羽織りバッグを手にした。
「佐々木さんもありがとうございました。資料集めは週明け私がしますので」
「え?そうなんですか~?じゃぁ僕、部長を手伝っていきます」と、まだまだ残っているサンドイッチやらおにぎりやらを名残惜しそうに見つめている。
「すみませんが、失礼します」と瑠華は足早に帰って行った。
よっぽどの急用なのか瑠華は一度もこちらを振り返らなかった。
誰と会うのか問いただしたかったが、
そんなこと、できないのは分かり切っている。
結局、残りの仕事は佐々木に手伝ってもらってそれから一時間でやっつけることができた。
佐々木が買ってきてくれたおにぎりやサンドイッチもきれいに平らげたし
「佐々木、サンキュな。助かった。お前ももう帰っていいぞ」と言うと、佐々木は素直に「分かりました~、じゃぁお先に失礼します」と言って帰り支度をする。
佐々木が帰ってから三十分、俺は意味もなくデスクにへばりついていた。
さっきも村木の様子が気になる。
紫利さんに電話をしてみるか?
いや、話途中だったら俺が電話したことで不利になるかもしれない。
ああ、もどかしい。
と言う思いを抱えていると
TRRRR……
着信:村木
と表示されたのを見て俺は携帯に飛びついた。
「もしもし!」
勢いよく出ると
『はぁはぁ…』と息が切れる声が……
イタ電…??
てかキモっ!!
思わず切ってやろうかと思ったが
『神流部長、凄いことが分かりました。驚かないでくださいよ』
「え!マジで!!?」
『………
まだ何も言ってませんが』
「驚く練習をしてみただけです」
『冗談を言ってる場合じゃありません。
分かったんですよ、瓜生常務の隠し子―――』
常務の―――隠し子―――
そう、それこそが今日の村木の最大の”任務”
二村が現れたことで半ば諦めていたが
「だ……誰……?俺も知ってる人ですか…」
携帯を握る手に力が籠った。
『それは―――』
村木の次の言葉を聞いて俺は目を開いた。
何で
あいつが?
嘘だと言ってよジョー
(だから古いっつうの)