Fahrenheit -華氏- Ⅲ

A(エース)はあたし、あたしが一番強い。

♥Ruka♥


雑多な東京駅の、これまたどれも似たようなビルの一つ、店名だけを頼りにスマホのマップでその居酒屋を見つけられたのは、あたしが会社から出て30分も経っていた。


居酒屋は完全個室と言うわけではなく、一応は席と席の間にすだれのようなものが掛かっていて区切りはしてあるものの、あちこちから賑やかな声が聞こえてくる。


週末だということもあって繁盛しているようだ。


「瑠華ちゃん、こっちこっち~!」と奥まった席で葵さんがブンブン手を振っていて、それほど迷うことなく彼を見つけられたことにほっとした。


「ごめんね~急に呼び出しちゃって」


「いえ、私もあなたに会いたいと思って……」


……


コートを脱ごうとしていた手を止め、あたしは目を細めた。


「何ですか、そのきらきらした目は」


「だって!瑠華ちゃんが俺に会いたいって!!」


はぁ


あたしは小さくため息をついた。


「私が会いたいと言うのは、その後の二村さんの動向が気になるから。それ以外理由はないです」


嘘―――


ホントはちゃんとお礼がしたかった。


ジェイクとの仲を二村さんに疑われていると、教えてくれたのは葵さんだから。


ただ、お礼を言いたいだけの為に呼び出す関係じゃないのが分かっていたから、あたしからは敢えて連絡しなかった。


変に情が移るのも移されるのもごめんだ。


「二村さん、あれから大人しいものですよ。あなたは二村さんが焦っているような口ぶりでしたが、まったくその素振りも見せていません」


「うんうん、そのことはまた後で話すから、それより何飲む?」


テーブルには葵さんが飲みかけのビールのジョッキが置いてあり、だし巻き卵や串カツなんかも並んでいる。


「じゃぁ生で」と注文すると、ビールが運ばれてくる間、葵さんは教えてくれた。


二村さんはやはり内心かなり焦っているようだ、と。


無理もない。株の約半数が買い取られたわけだから。


まぁ買い取られたわけではない、出資しただけのことだから、二村さんにそれ以上の財力があるのなら出資なり買い取るなりすればいいだけの話。


しかしあたしの二こ下の若者が、普通の財産を持っても無理な話。


強力な後ろ盾があるのなら、話は別だが。

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