Fahrenheit -華氏- Ⅲ
しかしSNSの情報だけではそれ以上のことは探れず、
あたしたちは早々に諦めて食事をすることにした。
さっき佐々木さんと買ったサンドイッチやおにぎりを食べ損ねたって言うのもある。
最近……少しずつ食欲が戻ってきている気がする。
他のテーブルで注文したのだろうか、店員さんが通るときに焼き鳥のいい香りが香ってきて、胃がきゅっと締め付けられた。
あたしは串盛りと鯛の刺身を注文して、ついでにビールのお代わりも頼んだ。
「こんなこと思うのもどうかと思うんだけど~」と焼き鳥のもも串を頬張りながら葵さんが小さく唸る。
「何ですか」
「ミミちゃんのあの投稿サ、”匂わせ”的な?『あたし空ちゃんと一緒にいます』的な…」
ああ、匂わせ……そう言えばちょっと前そのワードを知ったばかりだ。
「考えすぎじゃありませんか?ミミちゃんのアカウントは鍵が掛かっているのでしょう?自慢したかったらもっと大っぴらに見せる筈じゃ?」
「大概はそうだけど、もしも……もしもね……ミミちゃんがまだ空汰のこと好きで、でも誰にも言えなくて、鍵付きのアカウントでこっそり投稿してたら、ちょっと気が晴れる的な?」
「なるほど……と言うかあなたは何故そこまで女性の心理に詳しいのですか」
あたし以上に。と言う言葉はしまっておこう。
「だって俺、長い間女のとこ点々としてたし」と葵さんは恥ずかし気もなくあっさり。
あそっ。
でも
そういうことであれば、やはり瑞野さんが好きなのは二村さん、と言うことになる―――?
その後はくだらない話をした。
食べて飲んで早々に帰ろうとしたが、
「待ってよ~、お願いだからもう一軒付き合って♪」と葵さんに懇願された。
あたしとしてはお礼をしたかったのと、二村さんの動きが気になっただけでもう用を果たしたわけだし(まぁ瑞野さんのSNSを発見できたのはおまけとしよう)、しかし頼みを聞く義理もない。
「すみませんが私はこれで」と言うと
「いいじゃん、いいじゃん♪」とぐいぐいと腕を引っ張られていく。
どこへ行くと言うのだろうか。
「ちょっと、強引なことをされると大声出しますよ」とちょっと怒りながら言うと
「着いた~♪」と葵さんはニヤニヤしながら一つのビルのネオンが連なる看板を指さし。葵さんがどの店を指さししているのか分からないけれど、そのどれもがキャバクラやガールズバーと言ったタイトルが連なっている。
「キャバクラ…?」思いっきり不審そうに顔をしかめると
「ここね~、空汰が良く来てるらしい~指名嬢の名前も聞いて知ってるから色々聞き出せそうじゃない?」
………
なるほど。
葵さんて強引だけど、ときどきあたしよりちゃんと考えがある人なんだな、と今気づいた。