Fahrenheit -華氏- Ⅲ

おしぼりで手を拭きながら、キョロキョロと店を見渡しす。


週末なのかどの席も客とキャバクラ嬢で埋まっていて、たまたま一席空いていたのが奇跡みたいだ。


「まさかあなた…」と葵さんを疑いの目で見てると


「まさか~俺だって急に思い立ったんだもん。てかさっきの空汰のSNS見ててサ、思い出したんだ。空汰のSNSフォロワーに指名したみほちゃんがいたからね~」


なるほど…


だがここで一つトラブルがあった。


「お客様、申し訳ございません。みほはただ今接客中でして15分程お待ちいただいて宜しいですか」と。


15分……


その間もお金が発生してる、となると何だか勿体ない気もするし、それに接客をしていない女の子たちがバーカウンターのような所でそわそわとこちらを窺っているのが見えて


「では他の子を。15分だけ」とあたしが提案するとボーイがほっとしたようだった。


「いらっしゃいませぇ」


淡いブルーの長いドレスを着た女の子と、黒いミニスカートの女の子が舌足らずで挨拶をしにきた。


「アミで~す」と淡いブルーのドレスの女の子。


「ミカです」と黒いミニスカートの女の子。


ともにあたしとそれ程歳が変わらない感じに思えた。あたしには一生縁がない世界で仕事をしている人たち。でも彼女たちも必死なのだ。


彼女たちはあたしたちを挟んで両脇に腰掛けた。


「アミちゃんにミカちゃん。俺、葵~、こっちは瑠華ちゃん。よろしくね☆」とすぐに溶け込んでる葵さん。流石だわ…


「今日はみほちゃん狙いで来たんだけどー」とあけっぴろげに言う葵さんのパーカーの袖をちょっと引っ張った。


「ちょっと…ご本人がいらっしゃらないのにそれは失礼では…」


「いいの、いいの~誰も気にしてないし~」


とは言うものの……


「え~、おにーさんたちみほ狙い?あの子売れっ子だからなかなか捕まらないよ~」と彼女たちは苦笑を浮かべながらも、飲み物を作ってくれる。


「良かったらうちらを指名してくれない?~」二人に言われ、彼女たちは二人ともお店の名刺を差し出した。


黒いベースにゴールドのラメが入った名刺に、店名の「ムーランルージュ」とそれぞれ名前が印字されている。


「わたくしはこう言う者で」


会社人のサガなのだろうか、名刺を差し出されると咄嗟に自分の名刺も交換の意味で出してしまった。


「ぷ」と葵さんが吹き出し、慌てて自分の名刺を引っ込めようとすると


すでに名刺を手にしたアミさんの方が


「あれ?神流グループって、前にもこの会社の人来たよね…」とミカさんと目を合わせ


「あー、ホントだ~」とミカさんも目をぱちぱち。

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