Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「空汰のことじゃね?」と葵さんがこそっとあたしに耳打ちし、あたしも頷いた。
「それって俺らぐらいの年齢の若い男?俺、たぶんソイツのツレ」
「えー、そうだったの~?確かにいたよね~、何て言ったっけ……」とアミさんがミカさんの意見を聞き
「空ちゃんのことじゃない?たまにヘルプに入るから覚えてる」とミカさんが言う。
ビンゴ。
「でもぉ、あたしたちがついたときはもっと平日でぇ、もうひとりおじさんが一緒だったよね。空ちゃんからは名刺もらってないけど、そのおじさんがくれたのを覚えてる」
おじさん―――……?
それもあたしたちと同じ会社の―――
「誰ですか」
思わず身を乗り出すと、アミさんとミカさんはちょっと顔を合わせ苦笑い。
「これ以上は……」と言葉を濁した。
なるほど、個人情報と言うわけか。
女の子たちの興味はあたしの質問から逸れ
「おねーさん、そのプラダのバッグ!新作でしょ?わー!すごい、可愛いっ!!」
とあたしの脇に置いたバッグに興味が移った。
「新作?」と葵さんが目をぱちぱちさせ
「うん、30万以上するんだよ~、やっぱ可愛いな~、相当儲かるんですね神流グループって」とミカさんがキラキラとした目であたしを見つめる。
瞬間、あたしはひらめいた。
この子たち―――使えるかも。
「ごめんなさい、ボーイさんを呼んで」と軽く手を上げると、アミさんとミカさんが顔を青くさせた。
「ごめんなさい!あたしたち悪気があったわけじゃ…」
「いえ、みほさんの指名を取り下げて、あなたたちを指名します」
「ちょっ!」と、今度は葵さんがあたしのブラウスを軽く引っ張った。
「安心してください、ここの支払いは私がしますので」
「……いや、そーいう意味じゃなくて…」
「「ホントですか~!?」」とアミさんとミカさんは手を組み大喜び。
「ついでにここで一番高いボトルを入れてください、もちろんあなたたちの分も」と言うと女の子たちは一瞬だけ探りを入れるようにさっとあたしの全身を眺め、やがて支払い能力があると踏んだのか
「お願いしま~す♪」とミカさんが手を上げボーイを呼び寄せた。