Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「良かったぁ、ぶっちゃけ言うと今月うちら売り上げノルマ厳しくてぇ」とアミさんが小さくため息。相手が女性同士だと、本音が出ると見えた。
「どの世界でも大変ですね、では手始めにさっき私がお渡しした名刺を返してください」
二人に手を差し出すと
「え?」二人はキョトンとした感じで、だがしかしすぐにあたしの名刺をおずおずと差し出してくる。
それを受け取りながら、タバコを取り出すと、あたしの隣に座ったユカさんがサっとタバコに火を点けてくれた。他人に火を点けられるなんて変な感じ……だが、この世界では当たり前なのだろう。誰も何もこれと言った反応は見せなかった。
しかし戸惑う素振りは見せてはダメだ。ここでのAはあたし。
あたしが一番強い。
大きく息を吸い込み、
あたしはタバコの先にさっき彼女たちに手渡した自分の名刺の先を当てた。
名刺は炎をまとってメラメラと燃え上がっていく。つまんだ名刺の半分が灰と化して消えていった頃合いで、あたしはまだ燃え続ける名刺を灰皿に落とした。
「え…?え?」と彼女たちは困惑したような表情であたしを見つめてくる。
「今日、ここで喋ったことは今後一切他言無用です。もし他のお客様に喋った場合、あなた方もこの名刺のようになるのでお気をつけて」
まったくのハッタリだ。あたしは人に暴行を加える気もないし、社会的に抹殺する能力もない。
脅し、と言ってもらえればいいだろう。
「ホントだぜ?従っておいた方がいいよ、このひと、こーみえてめちゃ怖いからサ」と葵さんは苦い作り笑い。体験談だ、とよっぽど口にしたかったのかもね。
「う、うん……」とアミさんの方が先に頷き、ミカさんも慌ててこくこくと首を縦に振った。
「風変わりな女の客が来た、とでも思っていてください。それで、”空ちゃん”と一緒に来た男性についてお聞きしたいのですが、その名刺には何て?」