Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「それは確かな話ですか」と彼女たちに真剣に問いかけると、彼女たちは委縮したように肩を縮こませながら
「確かな話って言われると……でも、あのとき空ちゃんもあのおじさんもだいぶ酔っぱらってて、大盤振る舞いしてたから、余ってる女の子全員呼んでくれて…」
「そうそ、おねーさんと一緒のボトルもおろしてくれて、女の子たちにもフルーツ盛り頼んでくれてぇ」
「あのとき、空ちゃん結構酔ってたよね?おじさんのこと『父さん』って呼んでた」
アミさんがポンと手を打った。
「空汰……実はあー見えてそんな酒強くないんだよな。相当飲んだに違いない」と葵さんが頭の後ろを掻く。
そう、だったの?
「そうそ、そうだった!間違いないよ、空ちゃんおじさんのこと『父さん』て呼んでるの何回も聞いたし」
「なぁなぁ常務って凄いの?」と葵さんがこそっと耳打ちしてきて「かなり」とあたしは短く頷いた。
これで―――
これで繋がった。
前に啓から聞いた。瓜生常務と鴨志田監査役、そして村木さんと二村さんが料亭で会ってた、と。
村木さんは単なる懇親会みたいなものと言っていたが、だったら何故二村さんが同席した、と言う問題がやっと解決できた。
『監査役は常務のご子息のこと大層羨ましがっておいででしたね』
村木さんの言葉が蘇る。
常務の―――息子。
「葵さん…あなた二村さんに後ろ盾がないってさっき仰いましたよね」
「うん、言ったけど、だって俺だって空汰の父親のことなんて知らなかったし……てかマズイ状況なんじゃ?」
確かにマズイ状況ではある。
けれど利用できないわけでもない。
「色々ありがとうございます、これは情報料です」
あたしは彼女たちに、ボーイや他のキャストや客に見えないように気を付けて、それぞれに1万円札を差し出した。
「え…!」と彼女たちは驚いていたものの、「いいんですかぁ?」とすぐにそれをクラッチバッグに仕舞い入れる。
「それと、今日私たちに会ったこと、私たちと話した内容は一切他言無用でお願いします」
しー、あたしは唇に指を置き、微笑んだ。
麻野さん曰く、あたしの笑顔は悪魔の笑顔みたいだから、この効果は抜群なようだ。
彼女たちの喉がごくりと動き、やがてぎこちなく頷いた。