Fahrenheit -華氏- Ⅲ


家に着いたのは日付が変わる真際だった。


―――疲れた…


バッグをソファに放り投げ、コートを脱ぎ、それもソファに乱暴に放り投げる。


バッグの口からスマホが飛び出て、ソファに転がった。


そう、だった。


まだやることがある。


ふぅ


あたしは今日何度目かのため息を吐いた。



――

――――



『ミミちゃんのSNSを閲覧する方法?それだったら瑠華ちゃんがSNSのアカウントを登録してフォロー申請すればいいんじゃない?』


葵さんの言葉を思い出しながら、あたしは二村さんや瑞野さんが使っているSNSのアプリを早速ダウンロードした。


電話番号登録や、メールアドレス登録、パスワード設定…


意外に面倒だ。


何故だろう、仕事だったら全く苦にならないのに、今はこの設定だけでうんざりしてしまう。


キッチンカウンターの上に乗ったスコッチの瓶を手にバカラのグラスに注ぎ入れ、それをゆっくりと飲みながらタバコをくゆらせた。


一通りの設定をし終わったのはそれから五分後、タバコ一本が完全に灰になった。


しかしその後の『アカウント名』の欄にきて、あたしの手は完全にフリーズ。


『アカウント名も結構大事だよ。ミミちゃんに接触したいならいかにも女の子っぽい名前がいいよ、鍵を付けてるわけだから変なヤツから接触されたくない、って思ってるだろうし』


葵さんの言葉を思い出し、しかしバカ正直に『瑠華』と設定したら瑞野さんにあたしだと思われて警戒されるだろう。


そこでふと思ったのが


『Louie.』


………


やっぱナイわ。マックスから呼ばれていた愛称を使うのは抵抗がある。


「う゛ーん、どうしよう…」ソファに置いたぴよこに語り掛けると、ぴよこはつぶらな黒い瞳をまっすぐにあたしに向けていた。


「ぴよこ、か……女の子っぽいし、いいかも。瑞野さん動物好きそうだし」


ぴよこはぬいぐるみだけど。


アカウント名を入力しようとしたときに、『あなたと知り合いかも?』とアプリの画面が切り替わった。


『一通りの設定が終わったら番号で紐づけされてる知人友人の情報が入ってくるんだ、それで適当な人と相互フォローしておくと、より信用度が上がると思う』


とまたも葵さんの言葉を思い出し


「そっか……それもしなきゃ…」


……面倒くさい。


がくり


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