Fahrenheit -華氏- Ⅲ
次の日
俺は村木との約束通り、二回目になる村木邸にお邪魔することになった。
手ぶらでは何だから、しっかりと手土産も用意してやったぜ、喜べ村木!!
村木は変わらず仏頂面で出迎えてくれた。今日は賑やかな梨々花嬢は出かけているのか、村木の優しい奥さんが俺を労ってくれた。
「遠い所わざわざありがとうございます」
俺が手土産で持ってきた、フルーツ寒天と緑茶を出しながら村木の奥さんはにこにこ。
「足…だいぶ良くなったようで安心しました」
「はい、おかげさまで。その節は色々親切にしてくださりありがとうございました。今日は梨々花ね、デートなんですよ」
こそっと村木の奥さんが教えてくれて、あはは…俺は小さく空笑い。その様子をムっと眉をしかめて聞き流す村木。
早く本題に入って帰りてー!
奥さんが出て行ったのをきっちりと確認すると、村木は自分の携帯を取り出した。
「”問題の”話題の録音です」
俺は目をぱちぱち。
村木によると、仕事用の携帯を通話状態にしてその場に置き去りにして村木自身の携帯に繋げておいてトイレに立ったフリで会話を聞き、なお録音をしていたようだ。
さっすが陰険!やることえげつねー!
と、感心(?)してる場合じゃない。
ここは村木のファインプレーに拍手を送らねば。
録音を再生すると
『どうして急に村木部長と食事を?』二村の声が聞こえてきた。
『誘われたんだよ』
『急に?』二村は疑っているようだ。
『急ではない、まぁ彼は神流派にも緑川派にも属していないし、ジュニアの天敵みたいだしな、害はないと思ったわけだよ。
だが油断はできないからな、お前を呼んだ』
瓜生常務の言葉に俺は目を細めた。タヌキ二号め…
『で?どう思う、村木くんは』
『俺にもよく分からない人ですね。確かにどちらの派閥にも属してはいないですし、派閥争いの話にも顔色一つ変えず興味もなさそうだ。
だけど父さん』
―――!
父さん
村木の言葉を信用していないわけじゃなかったが、改めて聞くと、俺の手の内に強力なカードが回ってきた、と言う実感が沸いた。