Fahrenheit -華氏- Ⅲ
『外では”父さん”と呼ばないでくれ』
瓜生常務の若干不機嫌そうな声が聞こえてきた。
『だけど今は誰も居ませんよ。俺は小さい頃から父親の存在に強いあこがれがあった。こうして二人っきりのときぐらいいいじゃないですか』
二村の、しゅんとした声が聞こえてきて俺は眉間に皺を寄せた。
これが本心なのか演技なのか分からないが、瓜生常務の方はあくまで隠したがっているようだ。
『悪かった』瓜生常務が二村の言葉に申し訳なさそうに呟いた。
『ところで、CCと柏木 瑠華の繋がりは分かりそうなのか?』瓜生常務の言葉を聞き、俺は目を開いた。
村木は一旦、録音を止め
「どういうことですか。私は何故柏木補佐の名前を出されたのか分かりませんが」
探るように聞いてきて、俺は株の35%を外資ファンドのCCが投資した話をまた説明する羽目になった。
「なるほど、瓜生常務たちは柏木補佐の差し金だと思っている?」村木に聞かれ、俺は顎に手を置いたまま
「正直、俺もそう思っています。けれどその場合俺たちの味方だと言うことになる。だから常務たちにとっては敵になるってことですね」
村木は口の中で「うーん…」と小さく唸り、録音の再生を再開させた。
『柏木さんとCCの繋がりは今調べさせてるところですよ。今のところ、柏木さん本人は否定してるみたいですが』
瑠華がジェイク・ダリスとの関係を否定―――
何故、二村が知っている。
いや、こいつは『調べさせている』と言った。と言うことはこいつ本人ではなく誰かが瑠華の周りを嗅ぎまわっているのだろうか。
『風向きがまずい方へ向かっている』瓜生常務が唸るように言った。
『大丈夫ですよ、俺には”切り札”があるんで。
柏木 瑠華には邪魔させない―――』
切り札―――
あのオークションの録画のことだ。