Fahrenheit -華氏- Ⅲ


――――
――


「散らかってるけど」と俺はお決まりの台詞で紫利さんを自分のマンションに招き入れた。


「ねぇ、ホントにいいの?瑠華ちゃん以外の女を入れて」


紫利さんが申し訳なさそうに、玄関口でたたずんでいる。流石、常識のある女は違うぜ。そう言えば紫利さんを家にあげるのは初めてだ。


本当は瑠華以外の女を入れることは抵抗があるが、綾子だって来てるし、瑞野さんには襲撃されたし、もう色々諦めたって言うか……


それに紫利さんだったら綾子とは違った意味でカウントに入らない気がした。瑠華と仲良くしてるみたいだし。


「外で話すのはマズイし、かといってホテルの部屋に入っていくとこ見られたら紫利さんの家庭を壊しかねない」


真剣に言うと、ふっと紫利さんは笑った。


「”元”不倫相手の部屋に入るのも相当なリスクよ?でも、まぁ外で会うよりは安全ね。蒼介はせっかく休みなのに研究室に行っちゃうし」


紫利さんをリビングに通し、俺は彼女にコーヒーを淹れた。その間も紫利さんはぐちぐちと旦那のことを愚痴っていた。


珍しいなー、紫利さんがこんな愚痴言うなんて…


「喧嘩でもしたの?」


「喧嘩にもならないわ」紫利さんはふん、と腕を組んで眉間に皺を寄せる。


「あんたは瑠華ちゃんとよりを戻せたら彼女を寂しくさせないことね」


「勿論、それだけはぜってぇ自信ある!」


「あら、そ。じゃ、単刀直入に言うわ。瓜生常務と二村くんの親子関係はハッキリしていた」


コーヒーカップに優雅に口をつけながら紫利さんが切り出した。さっき愚痴を言っていた表情と打って変わってそれは真剣なものんだった。


やはり―――


「大変だったのよ?あなたからメールもらった時、ちょうど来店されたときでね。村木さんも一緒だと聞きたいこと聞けない気がして、慌てて村木さんだけ別テーブルに行ってもらった。席が用意できなかったとか何とか言って」


「サンキュ。急で悪かった。で?どうやって会話を引き出したんだ?」


「『常務にはお嬢様が二人いらっしゃるとお聞きしましたけど、羨ましいですわ。私は子供に恵まれないので』って切り出したら、いい加減酔っぱらってたのね、彼は自慢げに二村くんの肩を抱いて『実は息子もいるんです』って」


「本当の親子関係なのかな」


俺が紫利さんの向かい側に腰を下ろすと


「間違いないみたいよ。DNA鑑定もしたって」


紫利さんは想像以上に良い働きをしてくれたみたいだ。俺が気になってたことを全て聞き出してくれた。


しかし、さすがタヌキ二号なだけある。やっぱり二村のこと最初は疑ってたんだな。


でも別の所でちょっと不安はある。


「常務になにかされてない?」


紫利さんは「ふふっ」と小さく笑い「ハッキリと口説かれたわ。『ご主人が羨ましい。子供が欲しかったら手伝いましょうか』ってね」


タヌキ二号め。ど変態だな。


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