Fahrenheit -華氏- Ⅲ


その日の午前中も滞りなく仕事が進んだ。


昼休憩前に


「TUBAKIウェディングの香坂さんに会ってきます」と瑠華が言い出し「先日のアポイントをキャンセルしてしまったのでその打ち合わせに、ついでにランチも食べてきます」


「うん、分かった。よろしくね」


「何をおっしゃってるのです。あなたも一緒ですよ」と言われ、俺は目をぱちぱち、自分を指さし。


「TUBAKIウェディングさんはマルーナホテルとも提携しています。何とか会場を見せてもらえないかお願いしに行くのです」


「え!」


「それはナイスアイデアですね~、原則会場は当日じゃないと入れませんが、コネがあったら別ですしね」と佐々木も言い出し


「だけどなー、香坂さんがあっさり頷くと思うか?何かとてつもない条件出されそうで怖い」俺はお手上げのポーズを作って両手をかざした。


「その条件次第です。できる限り飲んでさしあげましょう。それに香坂さんとは長いお付き合いでしょう?」


ま、まぁ??


「では」と瑠華は言って勝手にホワイトボードに神流、柏木→TUBAKIウィディング外回り、と書き込んでいる。


「いってらっしゃ~い」と佐々木に見送られ、


積極的、と言うかほぼ強引に連れ出された。



――――

――


行きはタクシーで向かうことにした。


正直ほっとした。俺の車や社用車で二人っきりと言う雰囲気は、嬉しいがまだ少し慣れないしキマヅイ。


広尾の神流グループオフィスから世田谷区三軒茶屋にあるTUBAKIウエディングの事務所は、車で10分と言う距離だった。


勿論、俺たちは無言ではなかった。香坂さんとの打ち合わせの前の打ち合わせをして、その十分もあっという間に過ぎた。


タクシー運転手もつい二か月前別れたばかりの男女だと思わないだろう、それぐらい俺たちは自然に同僚を装えた。


TUBAKIウェデングの事務所兼結婚式場になっている場所に、俺たちは相変わらず結婚式場の方へ案内された。


濃紺の絨毯を敷いた広いロビーに、これまたどでかいクリスマスツリーが飾ってある。そのほかの壁にもリースや凝ったオーナメントがぶらさがっていて、ゆるやかに流れるBGMもクリスマスソングだった。


そっか……意識してなかったけど、もうすぐクリスマスか…




瑠華は―――クリスマス誰と過ごすのだろうか。

< 683 / 822 >

この作品をシェア

pagetop