Fahrenheit -華氏- Ⅲ
クリスマスシーズンに行う結婚式のカップル限定、模擬結婚式と言うことは聞いていた。
カップルは全四組。二人一組になってチャペルの通路を挟んだ両側の席に座っていた。
通常ならここはたくさんの親族や友人たちで埋まる筈だろうが、今は8人しか座っていない。俺は後ろの方の席へ腰かけた。
男一人で座ってるから変な目で見られやしないか心配だったが、皆自分たちのことで精いっぱいなのか、或いはスタッフの一人と思われているのか特に不思議そうな目で見られなかった。
祭壇の脇に立った白い衣服に包まれた聖歌隊が、賛美歌を歌い始めると、背後で扉の開く音が聞こえ、見覚えのない初老の男とベールを被った瑠華がバージンロードに現れた。
初老の男は式場スタッフの一人だろう。父親を模しているのだ。
その男の腕に自分の手を絡め、瑠華が男とともに一歩進む。
カップルたちが感嘆の声をあげた。俺も目を開いた。
息をのむ程の美しさ。
ああ、瑠華は何て―――輝かしい。
でも、瑠華の視線は俺ではなく、デモンストレーション用のスタッフの一人、新郎役の方に向かっている。
俺は―――
瑠華のウェディングドレス姿はきれいだし、映画”卒業”じゃないが、このまま花嫁をさらっていきたい、と言う衝動にかられた。
けれど”卒業”がハッピーエンドだったかと問われればそうじゃない。二人の喜びはやがて未来への不安に変わるのだ。
そう、いっときの感情で動いてもいい結果にならないのは分かり切っている。
だからこそ、俺はそんな眩しい瑠華から目を逸らしたくなった。
俺は臆病者だ―――