Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「ホントは何があったの?」
綾子はすでに牛丼3分の2程を食べ終えていて、前を向いたまま聞いてきた。
俺は、はぁ、と大きくため息をつきつつも
「言えね」と小さく呟いた。
「ま、いいけど。大人なんだし、その辺は当事者同士が解決するわよね」
綾子は天井を見あげながら、すぐに視線を戻し空になったジョッキに気づき
「すみませーん、お代わり」と頼んでいる。
店員がお代わりのビールを運んでくる途中だった。
~♪
俺の携帯にメール受信を報せた。
携帯を胸ポケットから取り出し―――
瑠華と偶然にもお揃いだった携帯が―――お揃いではなくなった……と言うことを改めて知らされた。
気落ちしそうになったが、俺は受信されたメールを開いた。
登録されてないアドレスは見覚えのないものだった。
From <Purple.Wisteria…Y.K@XXXXX> 20XX,11,03 20:16:19>
誰だぁ?迷惑メールかと思ったけれど
Sb:『夜の蝶より』
となっていて、俺は慌ててメールを開いた。
『Purple』は紫、『Wisteria』は藤……藤枝…
イニシャルY・K―――
“ヤッホーケイト、元気してる?久しぶりに会いたくなっちゃったわ。気が向いたら来てちょうだい。『いつものホテル』で。 銀座の蝶より”
と言う一文を見て目を開いた。
俺は食いかけの牛丼を綾子に押し付け
「わり、俺用が出来たわ」
「えっ!ちょっ!」と綾子が何事か喚いていたが、それを無視して
脱いでいた上着をひっつかみ、牛丼屋を出た。
車で指定された高級ホテルに向かう。
国道418号線沿いを北上すると恵比寿ガーデンプレイスがある。
その手前に高層のホテルが建っている。ここからでもそのノッポの先っちょが見えるぐらいだ。
そこは“俺と紫利さん”が会うときに使っていた場所。
はじめて紫利さんと会った最上階のスカイラウンジのバーに向かうと、いつものカウンター、いつも席で紫利さんが気軽に手を振っていた。