Fahrenheit -華氏- Ⅲ


地位がある。お金がある。


それに越したことはないが、それによって群がってくる人間たちの汚い部分をたくさん見てしまうのも、また現実だ。


幸い、あたしに群がってくる男は今のところいない。


葵さんは別として、マックスやジェイクはあたしよりはるかにお金持ちだし地位もある。


そんな彼らが何でこんな小娘に一生懸命になるのか。


ただの小娘―――ではない……あたしはNY(向こう)では珍しいアジア系女だ。


彼らは日本人の人形みたいな従順な女を手に入れたいだけ。


生憎だけど、あたしは可愛い人形なんかじゃない。


ふと、昔の記憶が蘇った。


あれは―――マックスとの離婚が正式に成立して、ユーリを彼が引き取ることが決まったときだった……


マックスの母親ジェシカに最後の晩餐と言わんばかりにディナーに誘われ、


当時ヴァレンタイン本家の邸宅で広いダイニングでたった二組用意されていたテーブルセッティングを目の前にして、しかしながらあたしはその席に座る気は毛頭なかった。


『Reject. It's none of our business anymore.
(お断りするわ。もうあたしたち関係ないでしょう)』


と言うと、ジェシカは赤く妖艶な口元をゆっくりとあげて


『I knew you would say that. You will not look at us when you have no use for us. You loved this Valentine's property, not Max.
(あなたはそう言うと思っていたわ。用がなくなったら、見向きもしない。あなたが愛したのはマックスじゃなくてこのヴァレンタインの財産)

It was a mistake in the first place to try to break into the family in such a lowly position.
卑しい身で一族に入り込もうとしたのがそもそもの間違いだったのよ)』


ジェシカはマントルピースの前で揺らめく炎をバックにゆっくりと立ち上がり、あたしの方へ歩いてきて、あたしの肩にそっと手を置いた。唇と同じだけ赤い色の爪がまるで炎のように見えた。


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