Fahrenheit -華氏- Ⅲ
そう、あたしはヴァレンタインと決別したのだ。もう二度とあの一族には関わらない。
マックスがどんな行動を起こしても、あたしたちは一生復縁することなんてない。
―――つもりだったけれど、今はやはり過去のことを忘れられていないあたしが復讐を企てているのは事実。
でも―――あたしがジェシカに思われていたこと、緑川さんは思う方の立場なのだ。
「……補佐、柏木補佐?」
問いかけられ、はっとなった。
「……ごめんなさい、葉月の話ばっかりで……顔色悪いですね。大丈夫ですか?」
さっき啓にも指摘された。
あたしは―――どれだけ具合が悪そうなのだろう。
「いえ……私の方こそごめんなさい、緑川さんの心情に寄り添えずズケズケとした物言いを…」謝ると、緑川さんは慌てて手を振った。
「いえ!葉月が厄介な相談持ち掛けたんで、柏木補佐は悪くないです」
緑川さん―――
最初は仕事もしないのに玉の輿だけを狙う軽い女かと思っていたが、彼女のことを知れば知るほど本当は心優しい、そして恋に夢みる可愛い一人の少女なんだ、と言うことを思い知らされる。
「あまり長居はよろしくないかもしれませんね。いつ誰が入ってくるか分かりませんし」
そう切り出すと、緑川さんは大きく頷き
「じゃぁ柏木補佐先に戻っててください、あたしここで化粧直ししていきます」と緑川さんはピンク色のポーチをふりふり。
「ええ、ではお言葉に甘えて」
結局、お手洗いで用を足すわけでもなくあたしはお喋りだけをして自部署に帰ることになった。
何やってるんだか……まぁ緑川さんの不安を少しでも払拭できたのならそれでいいのか…
自分のブースに戻ると啓の姿はなかった。
「あ、お帰りなさい柏木さん。部長は今コンビニに出かけてますよ」
聞いてもいないのに教えてくれる佐々木さん、優しいのかそうじゃないのか。これじゃいつもあたしが啓の姿を探してるみたいじゃない。
「柏木さんランチ行きました?僕はまだで」
と佐々木さんが言いかけたとき、啓が戻ってきた。
「ただいま~、この時間コンビニって何もないのな」とコンビニのビニール袋を掲げて帰ってきた彼の姿を見て、どこかほっとした。