Fahrenheit -華氏- Ⅲ
あながち啓の姿をいつも探してる、って間違ってない気がする。
「えー、僕もこの時間になっちゃったから今日はコンビニで済まそうと思ってたんですけどぉ」と佐々木さんが眉を下げる。
「期待しない方がいいぞ?社食に比べりゃましだろうが」
「じゃぁちょっと遠めのカフェかファミレスにでも……柏木さんも…」と佐々木さんが言いかけたとき
「はい」啓があたしのデスクにゼリー飲料をポンと置いた。
「え?」目をまばたいていると
「食欲なさそうだったから、これぐらいならイケるかと思って」
「あ…ありがとうございます」
あたしはそのゼリー飲料をありがたく頂戴することにした。
「食欲ないって風邪ですか?そう言えばどことなく顔色も良くない気が…」
佐々木さんにも言われ、あたしは思わず頬を手で覆うと
「佐々木、それ以上言ったらセクハラになるぞ」と啓がふん、と鼻息を吐く。
「せ、セクハラ!?」途端に佐々木さんはわたわたと慌てる。
「いえ、ハラスメントは基本受けた側が訴えるもので、私は佐々木さんにセクハラを受けたと思いませんのでご安心を」
軽く手を上げて言うと佐々木さんは目に見えて安堵をした様子。
結局、啓に甘えてお昼はゼリー飲食だけとなった。
ちょうど良かった。
本当に食欲がなかったから。
―――――
――
食欲がないばかりか、午後から調子が悪くなってきた。
集中できない、簡単なことをミスる。
そんな自分にイライラする。負のスパイラルだ。
向精神薬を飲もうかどうか悩みはじめたときは時はすでに17時を過ぎたところだった。定時まであと一時間。
今日は早めに切り上げて、家に帰って気持ちを切り替えなきゃ…
その思いで一時間をやり過ごし、定時を過ぎて10分後に啓に日報を提出すると、少し驚かれた。
「そんなに具合悪いの?もっと早く言ってくれれば早退させてあげられたのに…」
最近ではあたしが残業できない理由は、啓と居づらいと言う理由から体調不良、もしくは精神不良に彼の中で変換ができているようだった。
「すみません、遅れは必ず明日取り戻しますので」と謝ると
「いやいや、遅れてないし。今日はゆっくり休んで」
「柏木さんお大事にしてください!後は僕が引き継ぎます」と佐々木さんにも言われ、あたしはペコリと頭を下げ二人の厚意に甘えることにした。