Fahrenheit -華氏- Ⅲ
エレベーターを待っている最中、スマホを取り出しLINEが一通届いていたことに気づいた。
葵さんだ。
何だろう、と思いで開くと
”瑠華ちゃん今日の夜空いてない?”と短い一文が書いてあった。
読み終わると同時に電話が掛かってきてびっくりした。何てタイミング……
『お疲れ~、LINEが既読になったからケータイ触れるのかなって』
なるほど、そうゆうこと……
て言うかこのひと若干ストーカー入ってない??
「何でしょう、私は仕事を終えたばかりで文字通り疲れているのですが」
『そっかぁ、じゃぁ気分転換に散歩でもしない?』
「あの、私の話聞いてました?疲れて…」
『じゃぁ通用口で待ってるね~♪』
通話は一方的に切られてしまった。
通用口??それはマズイ。いつ誰に何を目撃されるか分かったものじゃない。
気持ちが急いていたのかあたしはバッグのハンドルをきゅっと握り、まだ三階程でくすぶっているエレベーターのランプを憎らし気に睨み、降パネルを連打した。
―――
―――――
「瑠華ちゃ~ん!」
受付ロビーの社員出入口の向こう側で、葵さんは
―――警備員のひとたちに不審顔をされて止められていた。
「葵さん」
あたしが駆け寄ると
「な、言ったろ?俺はこのひとと約束があるの」
と見知った顔の警備員さんを思いっきり睨みつけている。
「失礼しました、柏木補佐のお連れさんでしたか」と警備員さんはパっと軽く敬礼の仕草。
「ご迷惑をお掛けしてすみません、ほら葵さんも謝って」と頭を下げると
「何でー」と葵さんは不服顔だが、ぺこりとちょっとだけ頭を下げた。
――――
――
「葵さん、何度も言うようですが従業員にはアポイントがないとあの場を通れません。ですけれど」
「そうなの?初めて聞いたー」と葵さんは反省している感じではない。
その隣を二人組の女性が通りかかった。確か経理部の……見知った顔だったが名前が出てこない。
「あ、柏木補佐お疲れ様です」
「お疲れ様です」
短く挨拶をして「ほら、行きましょう」と葵さんを促すと、経理部の女性従業員二人はひそひそ。
「柏木補佐の、弟……?」
「そんな風には見えないけど…もしかして彼氏?」
「えー、じゃぁ部長と別れたってのはホントの話?」
………
聞こえてるんですけど。