Fahrenheit -華氏- Ⅲ
見出しには『彼女と帰り道デート』と記載されていた。
緑川さんの気持ちが徐々に離れてきていること、このひとはまだ知らない。
呑気な人、と思うと同時に少しばかり気の毒にも思った。
「空汰さー、マジで結婚話進めるつもりだよ?」と葵さんに言われあたしは顔を上げた。
「具体的にはどうやって?」あたしが聞くと
「まずは父親である副社長に結婚の許しを得るって言ってた。アイツ的にはもうちょっとその計画が後だったけどガキできたし、流石に焦ったんじゃない?」
「いえ、むしろ子供は好都合かと。近道になる筈ですからね」
「そうなの?前から思ってたけど、瑠華ちゃん俺より空汰のことよく知ってんねー」
「まぁ、ほぼ毎日同じ会社に居るわけですしね。顔はあまり合わせませんけど。そうそう、ちょうど良かった。あなたにご報告したいことが一つ」
「何々?♪」
「ミミちゃんのアカウントとつながることができました。感謝いたします」
「え!マジで!あの短期間で?」
葵さんは目を丸めた。
何故驚く。教えてくれたのはあなたじゃない。
「いやー、ミミちゃんてガード固いからサ、どうやったのかな~って」
確かにあたしがSNSをやり始めたのは4日前だから短期間と言えば短期間だ。奇跡と言うものなのか、或いは必然だったのか。
「どう、と言われましても、ミミちゃんは猫好きだと気付いたので私も猫の写真をたくさん載せてみただけです」
それもどれもネットからの拾い画だ。
ついでに猫を飼いたいけれどマンションがペット禁止だから飼えない、と言うコメント(記事)も添えてみた。
それで簡単に心と鍵を開けてくれたから、瑞野さんはガードが固いと言う部類には入らなさそう。
「まぁ、似たような年齢の似たような環境の同性ですから、心を開いてくれたんでしょう」
「これでミミちゃんの情報見放題だね~♪で、何かめぼしい情報あった?」
その問いにあたしはふるふると顔を横に振った。
「生憎ですが、それらしい情報は何も」
「俺もちょこちょこチェックはしてるけどさー、空汰と二人で写ってる写真、結局あのスニーカーだけだったんだよね~」
まぁ、そんな簡単に行かないか……
今は瑞野さんと繋がれただけでも良しとしなければ。
そんなことを考えていると「瑠華ちゃん、スマホ貸して」と、葵さんが手を差し出してきた。
何をすると言うのだろう、しかし特に疑いもせずあたしは葵さんに言われた通りスマホを渡した。
葵さんは手慣れた手つきでカメラを開くと、街頭のイルミネーションをパシャリとカメラに収め、そしてまたも勝手になにやら操作。
「『彼氏と別れて初めてのクリスマス、寂しい』と呟きながらスマホをフリックしていく。
ここに来て葵さんが何をしているのか気づいた。