Fahrenheit -華氏- Ⅲ
何なの、この人は。今日何度目になるであろう疑問を頭に浮かべ、頭痛がすると言うのは建前だったのに本当に頭が痛くなってきた。
額を押さえて俯くと
「あ、頭が痛くなってきた??大丈夫!」と途端に葵さんはあせあせ。
「ええ、貧血かもしれません。今日は本当に失礼します」
「大丈夫?どっかで休んでいかなくても…」
「いいえ、結構です。家に帰って薬を飲んで寝ます」と今度こそ言い切り、葵さんがこれ以上何かを言ってくる前にあたしは彼に背を向けた。
葵さんはそれ以上何かを言ってくることなく
「気を付けてね」と手を振っているのが気配で分かったけれど、あたしはそれを見ないフリで地下鉄への道を急いだ。
家に帰りつくと、途端に疲れが来た。けれど疲れて落ち込んでる暇は今のあたしにはない。今日は―――色んなことが起こった。
ジェイクを完全に怒らせたろうし、出資の件から手を引かれると思うと次なるカードを探さなければならない。
しかしそのカードも出尽くした。今からジェイクに電話して彼を宥める?ダメダメ、そんなのあたしらしくない。一度言ったことを撤退するなんて安く見られてジェイクの思うつぼだ。
利用するのはいいが利用されるのはごめんだ。
ソファに腰掛け膝に両肘をついて考えていると、スマホの通知が鳴った。また葵さんからのLINEだろうか。どうせ『無事に帰った?』と言う連絡だろう。あの人、ああゆうとこマメだから。面倒だったけれど無視することもできずバッグからのろのろとスマホを取り出すと、葵さんからのLINEではなく、SNSへの通知だった。
慌てて開くと”みゆぅ@miz_miyu”と言う瑞野さんのアカウントからあたしのさっきの投稿にイイネが来ていて、さらにはコメントもくっついていてあたしは目を開いた。
『あたしも彼氏と別れたばかりです。だからお気持ち察します。お互い早く新しい恋が見つかるといいですね』
瑞野さんから初めてのコメント。
葵さんの言った通りだった。共感―――したのだ、瑞野さんは。
『別れたばかり』って二村さんと?と聞きたかったが、ここは慎重にならななければならない。どうやって会話を繋げよう。とりあえず葵さんに電話―――と電話のメモリを探していたが思いとどまった。何もかも葵さんに頼るのは良くないし、雇っている身をは言えこれ以上借りは作りたくない。
葵さん、面倒なことばかり起こしてくれると若干嫌気がさしていたが、いつだって葵さんの行動にはちゃんと結果がついてきた。
あたしが雇ったジョーカー、案外安い買い物だったのかもね。