Fahrenheit -華氏- Ⅲ
そろそろと口元に運び、しかし全てを呑み込むように俺はそれを一気に煽った。
乱暴に口元を拭い
「お代わりを」と頼んでいた。
「そんなに飛ばして大丈夫なの?」紫利さんが苦笑しながら眉を寄せる。
二杯目のお代わりが運ばれてきて
「なぁ、これって偶然?“このタイミング”で俺の携帯に紫利さんがメールを寄越してきたの」
横を見ると、紫利さんは俺の方を見てにっこり微笑んでいた。
「さぁ?」とうまくはぐらかす。
「瑠華から聞いたの?」
「何を?」
「なんか瑠華と紫利さん気が合うっぽいし、まだ連絡し合ってるのかなって」
俺の知らないところで心音ちゃんを含め女子会してぐらいだしな。
「じゃぁ俺の口から言うよ。
俺たち―――別れた」
再び運ばれてきた、ギムレットはやはりグラスの淵スレスレで注がれていた。
「ふぅん」紫利さんは小さく頷いた。
「瑠華に会ってすぐに気付いただろ?だから俺に連絡をした、違う?」
「まぁね。彼女は何でもない様子を装ってたけど、銀座の女を舐めてもらっちゃ困るわ」紫利さんは苦笑。
「俺が彼女と別れたこと知って、遊び相手でも探してンの?」
わざと、紫利さんを挑発するように言ったが、それは流石に大人のオンナだけある。
「遊び相手を必要としてないわ。ただ、ちょっと見た目がイイ男と居たら、それだけで自慢になるでしょ?暇つぶしとストレス発散」と紫利さんは妖艶に微笑む。
「暇つぶしか」
俺は渇いた笑みを浮かべ
「そんなに俺たちが別れたこと気にしてンの?俺が瑠華と付き合う前に俺がグチグチ言ってたから、そのことを笑いに?」
「そんな暇ないわよ」紫利さんはここに来てちょっとムっとしたように顔をしかめる。
「いいよ、紫利さんの暇つぶしとストレス発散に付き合う。
ちょうど良かった。俺も飲みたい気分だったんだ」
俺は二杯目も一気に煽った。