Fahrenheit -華氏- Ⅲ
出たな!シロアリ!
こいつも、俺の行くとこ行くとこ現れやがって。やっぱシロアリだ。
「部長もお昼休憩ですか~、ここどうですかぁ?」と間延びした声で隣の椅子を勧められ、仕方なくそこへ向かうことにした。店内はピーク時間をちょっと過ぎたばかり、と言うことで適度に混雑してたし他に空いてる席を見つけるのも面倒だ。
シロアリはスマホを手にしていて、何かを見ていた最中に思われた。
「何、お前もSNS?まぁいかにも映えそうだしな」言葉に棘が含まれていたがシロアリは気にした様子はなく
「違いますよぉ。今度のクリスマスディナー、どこにしようかな~って」
クリスマスディナー?
「ああ……二村と?オタクらうまくいってんね」この言葉は完全なる棘そのものだ。
だが言った後になってわざと咳をして「わり」と小さく謝った。緑川は二村との交際に疑問を持っているところだ。不安だろうし、悩んでいるであろう、そんなときに言うべき言葉ではなかった。俺の放った言葉は凶器になり緑川を傷つけるだろう。
だが緑川は小さく頭を振り
「これが二村くんの本心だったらすっごく嬉しいのになーって………だってずっとあたし二番目だったんですよ?本来ならクリスマス誘っても絶対断られてただろうけど……でも妊娠したら急に態度が変わってディナーも一緒にって、すっごくフクザツ」
緑川はカウンターの上に肘をつくと顔を覆った。
「てことは元一番だった瑞野さんはクリスマス一人ってこと?」
何気なく言った言葉に、緑川が勢いよく顔を上げた。
その目が僅かに充血していて唇はきゅっと引き結んでいる。その表情は怒っているのか悲しんでいるのか、ちょっと複雑そうに歪んでいた。
「あー……意地悪で言ったわけじゃないんだ、悪かった。ただイブに二人の女相手になんてできねーだろ、流石にあいつも」
「そう、ですよね。二村くんは一晩中あたしといるつもりだと思います」
「そっかー、いいなぁお前は」
「いい?あたしさっき悩んでるっていいましたけど」緑川が今度はちょっと怒ったように目を吊り上げる。
「どういう関係でもクリスマスイブに二人で過ごせる相手が居るっていいじゃん。その日ばかりはうまいもん食って写真撮りまくってSNSで自慢しろ?俺は一人寂しいクリスマス決定だからな。くそっ、去年に続いて今年も、かよ」
若干擦れ気味でアイスコーヒーを勢いよく飲み込むと
「去年も…?部長でも一人のクリスマスってあるんですね」と緑川の興味が俺の話に移った。
「まぁねー、てか去年は約束はしてたんだけど当日ドタキャンされてさ」
懐かしい。一年前俺は紫利さんに結構本気だった。紫利さんとディナーをすることを結構楽しみにしてたんだけど。
「ドタキャン!?ひっどーい」緑川が頬を膨らませる。
「じょーがないって、俺が悪いし。だって相手人妻だったしぃ?」
「人妻!?」緑川の声が思いのほか大きくて俺は慌てて「しー!」と緑川を睨み周りをキョロキョロ。
幸いにも俺らの話を聞いている客はいなさそうだったから良かったっちゃ良かったが。