Fahrenheit -華氏- Ⅲ


瑞野さんがゆっくりと顔を上げる。





「じゃぁあたしと一緒に過ごしてくれませんか?」




え――――?


「な……何で……」自分でもみっともない程間抜けな声が出た。


でもよく考えたら本来なら瑞野さんは二村とクリスマスを過ごす予定だったのだろう。二村が選んだのはシロアリ緑川。


寂しかったのだろうか。ぽっかりと空いたその日、俺が瑠華とのクリスマスを想像していたことを、瑞野さんもまた二村との夜を想像していたのかもしれない。


予定がない者同士、案外お似合いかもな。瑞野さんは連れていても可愛いし、気配りができるし。


と若干捨て鉢な気持ちになったが、俺は慌てて顔を横に振った。


クリスマスイブを男女で過ごすってことはつまり少なからずそう言う関係て思われる。


「やー、予定がないってのは仕事入れてるから」と適当に言い訳をこさえたが


「そう……ですか…」と瑞野さんはゆっくりと俯いた。顔を下に向けたときポタリと何かの雫が落ちてコンクリートの床に濃い染みを作る。それが何なのか、瑞野さんが小さく鼻をすする音を聞いて気づいた。


瑞野さん―――泣いて―――?


ど、どうしよう!


そんなに俺と一緒にクリスマス過ごしたかった?それとも一人になりたくなかった?


どっちだ!?


「い、今から店選んでも予約でいっぱいだよ?」頭が真っ白になって言ってしまった言葉に瑞野さんが顔を上げ、その顔にはやはり涙が頬を伝っていた。


「……どこでもいいです。居酒屋さんとかファミレスでも。部長と居られれば」


「っても、俺仕事……」


「終わるまで待ってます」


ぐわぁ!何を言っても通じねー!


シロアリもだが、瑞野さんも結構強引なとこあるよな。まぁシロアリみたいに猪突猛進タイプではないが、じわじわと攻めてきて、そのじわじわとしたボディーブローが時間差でやってくる。


俺、何やってんの?


クリスマスを過ごすってことはイコール特別な関係って意味じゃないの?


居酒屋で飲んで、またまたファミレスで飯食ってその後求められたら……


何で俺予定ないとか言ったの!


しかし言ってしまったことは撤回できない。ああ、俺もっと考えるべきだった。


瑠華が聞いていたらこうゆうんだろうな。





「浅はかです」





そうそう、こんな風に。


……って、え!?


瑠華!?


いつの間に来ていたのか瑠華が羽織ったジャケットの下で腕を組み、冷ややかに俺を見つめて…いや、睨んで?いた。

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