Fahrenheit -華氏- Ⅲ

瑠華と俺の登場に一同が息を呑んだ。


しかし二村は誰よりも立ち直りが早く


「やだな~、柏木さん、彼女たちも悪意があって言ったわけじゃないよ~」とさっきの余裕のない表情から一転、いつものニヤニヤ顔を浮かべている。しかも誘導したのは二村だって言うのにさりげなく女たちのせいにしてるし。


「私は確かにそれなりにお給料をいただいていますが、”それなりに”働いていますので」と二村の嫌味にも全く応えた様子のない瑠華が壁にもたれかかりジャケットの下で腕を組む。


「デキる女自慢ですか?時代は変わりつつあるけれど、やっぱ女の人は可愛くて愛嬌がないと、じゃないといきおくれますよ?ね~」


と最後の方は総務部の女たちに向かって笑いかけている。


女たちはさっきのバツの悪さから一転、急に髪の先をいじりだしにこっと二村に笑いかけている。


二村め、さっき瑞野さんと派手にやりあってたからその腹いせに瑠華を苛めて楽しんでる節がある。


「お前なぁ…」俺が見かねて瑠華に助け船を出そうとしたとき、瑠華は羽織っていたジャケットをさらりと肩から落とし、そのジャケットを手に何を思ったのかつかつかと総務部の女にトンと突き付けた。


「どうぞ、欲しかったのなら最初から言ってください。”お古”になっちゃいましたが。フリマアプリで売ればそれなりに高値が着くんじゃありませんか?」


ちょっと顔をかしげて口元に笑みを浮かべる瑠華はやっぱり……怖い―――


ジャケットを突きつけられた女たちは流石に


「ば、バカにするのも大概にしてください!」と顔を真っ赤にしてそのジャケットを床に投げ落とした。


瑠華はそのジャケットをゆっくりとした動作で拾うと、埃をパンパンと払い


「あーあ、意外と高かったのに」とマイペースに言い、今度は二村の方を振り返り同じように小首をかしげながら


「二村さん、あなたも。”本命”とクリスマスイブ過ごせないからと言って私に八つ当たりしないでください」と小さく鼻で笑った。


二村のにやにや顔がさっと変わり、目を開いて口元を歪める。


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