Fahrenheit -華氏- Ⅲ

あたしは白い封筒をぽんとテーブルに置いた。それをずいと葵さんの方へ押しやる。


「どうぞ、さっき銀行で降ろしてきました。追加料金です」


葵さんは少し厚みがある封筒の中身を一応は確認するとぎょっと目を開いた。


「いやいや、これ以上は……って言うか、逆にこれ以上俺に何やらせようって言うの?」と葵さんが口元を歪め目を上げる。


「何も。あなたはただ私たちが仲良しだと言うことをアピールしてくださればそれで結構。今日葵さんとの仲を暴露したのも女性社員に意地悪されて腹が立ったから、とでも言っておいてください」


「それは…いいけど……でも俺らの仲を簡単に信じるかな今のあいつ」


まぁ確かに。喧嘩を売った直後だから信じにくいかもしれないが。


「こっちは手ひどくフラれているのです。寂しかったし目的がどうであれ可愛くて優しい男の子に慰められて、あの女は強そうに見えて案外脆い部分があったからあっけなく、とでも言っておいてください。それに今はご自身の問題でいっぱいいっぱいですからね、深く詮索する余裕等ない気がしますが」


「ま、まぁ言ってることは分かるけど……でもそれ言うだけで10万も……って」


あたしはコーヒーカップに口をつけると、ちょっとだけ笑った。


「まさか私とあなたとの間で金銭的やり取りがされてるとは彼も想像できない筈。


だってあなたの魅力は金銭を払わなくても女を虜にできる最大限魅力があるのですから。二村さんはそれを知っててあなたを私に近づけさせたのでしょう」


うっすら笑って言うと、葵さんが大きな目をぱちぱち。


「今、そのお金を受け取る受け取らないのはあなたの自由です。勿論、ここで降りるのも続けるのも。


しかし裏切った場合、私たちが”契約”した際に交わした”秘密保持契約書”の存在をお忘れなく。受け取った金銭の何百倍もの損害賠償を払ってもらいますからね」


口に笑みを浮かべたまま葵さんに微笑みかけると、葵さんは軽く肩をすくめて小さくため息。


「ホント、瑠華ちゃんてサイコーにエキサイティングだワ。こんな女初めて」


「誉め言葉だと受け取っておきます」


ニヤリ、あたしの口にまたも笑みが浮かんだ。この人は絶対に最後まであたしに付き合ってくれる。


直観だけれど、まず間違いない。と踏んだ。

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