Fahrenheit -華氏- Ⅲ
その後の段取りを軽く話し合い、あたしたちはカフェを出ることになった。
「大体は分かったけどさー、一つだけお願いしていい?」
「お願い?」あたしは目を上げた。これ以上のカネの無心はしてこないと思ったけれど、やはり10万じゃ足りなかったかしら。
「うん。クリスマスイブはさー、
瑠華ちゃんの過ごしたいように過ごしなよ。好きな人と一緒でもいいし、一人になりたかったらなってもいい。女子会みたいにワイワイ騒ぐのもいいんじゃない?」
「え……でも二村さんの言い訳は……」
あたしは隣を歩く葵さんを見上げると、葵さんはパーカのポケットに両手を突っ込んだまま俯いた。
「俺さ、やっぱ気が乗らないんだよね」
ああ、そういう問題……さっきは喜んでたみたいだから良かったと思っていたけれど気が変わったのかしら。
「すみません、大事な日に厄介ごとを頼んでしまって」
「や!気が乗らないんじゃなくてその逆」
逆?ではあたしとクリスマスを過ごしたかったってこと?意味が分からずあたしが顔をかしげると
「俺は、俺とクリスマスイブを過ごしたいって瑠華ちゃんから本心で思われたいんだよ。ビジネスの為に一緒に過ごすんじゃなく、プライべートで会いたいの。だからさ、こんなヤラセみたいなの、虚しいって言うか……
我儘でごめん…
大丈夫!これからクリスマスまで日があるしそれまでにそれらしい写真撮ってクリスマスイブ当日にSNSにアップするから」
葵さんの言葉尻は消え入りそうになっていた。
………
たっぷり数秒の間考えたところで一つの結論に達した。
「では葵さんは私とプライベートでクリスマスイブを過ごしたい、と?」
あたしの質問に葵さんは奇異なものを見る目つきであたしを見降ろしてきた。
「瑠華ちゃんさー、さっき『あなたの魅力は金銭を払わなくても女を虜にできる最大限魅力がある』って言ったけど、あれ嘘?だったら詐欺師に向いてるかも」
詐欺師と言われて一瞬ムっとしたものの、葵さんに言われたところで痛くもかゆくもない。どこか体の一部をくすぐられている感じでちょっとむず痒い。変な感じ。
「ええ、言いましたが」
「俺と、クリスマスイブ過ごしたいって女の子はわんさかいるのの?」
「はぁ……」
「だけど俺は瑠華ちゃんとイベントを一緒にしたいと思ってるワケ。それがどういう意味か分からない?
大事なときに大切なひとの手を離しちゃダメだよってこと―――」
じれったそうに葵さんが言い前髪をくしゃりとかき上げる。
「分かりません」
きっぱりハッキリ言うと、葵さんはがくりと肩を落とした。
「あー、もお!このお姫様には何を言っても無駄だぁ!
瑠華ちゃん、俺さぁ……」
葵さんが何かを言いかけたときだった。
「勇馬―――?」
葵さんを呼び止める誰かの声がして、あたしたちは揃ってその声がした方を見た。
葵さんの次の言葉は変な風に途切れた。