Fahrenheit -華氏- Ⅲ
あたしと葵さんは揃って目を開いた。
葵さんを呼び止めたのは―――
二村さん、
それからその隣に居るのは瑞野さん―――?
「へー、ホントだったんだぁ勇馬と柏木さんが仲良くしてるってのは」
二村さんはどこか下卑た顔でにやにやしながらあたしたちに近づいてきた。瑞野さんはどこかバツが悪そうに顔を逸らしている。まるで見てはいけない何かを見てしまった、と言うように感じた。
しかしそんな不自然な瑞野さんの様子を気にした様子もなく葵さんがあたしの肩をそっと抱き
「そ。俺ら付き合ってンの」とにこにこ顔で言った。
付き合って―――!?ってまだその設定じゃないのに…何言い出すのこの人。
目を剥いて葵さんをみやると葵さんは『話合わせて』と目で合図。あたしは小さく頷いた。
「今日はさー、クリスマスイブどこで過ごす?って相談してたの」
「そ?つかさー、勇馬、俺お前に何回電話掛けたと思う?お前のSNSに吉祥寺のライブ参加って書いてあったから来てみたらホントに会えたから良かったけど」
なるほど、そういうことか。偶然では―――なさそうね。やはり二村さんはあたしと葵さんの仲を疑っていたようだ。葵さんにあたしのことをどうしても聞き出したかったに違いない。しかし葵さんの嘘はまさにファインプレー。うまくごまかしてくれて感謝だ。
「それより、何?”そっち”もデート?ミミちゃん久しぶり~♪」葵さんはどこまでも余裕顔で瑞野さんに笑いかけ手を振っている。
「ち、違うよ。たまたま帰りが一緒で勇くんに連絡取れないって言ってたから、あたしがSNSの更新情報見てここかも、って連れてきたの」と瑞野さんが俯き加減に言う。
「副しゃちょーの娘はどうしたのサ~」葵さんがからかうように二村さんを見て、「だから違うって言ってンじゃん」二村さんはちょっと苦笑したものの
「どうしてもお前に会って話したい事があってさー、だけどデートなら邪魔だったな、俺ら」と瑞野さんの方を見る。
瑞野さんはどうしていいのか分からない、と言った感じで目を伏せバッグハンドルをぎゅっと握っている。
どうやら見られたくない方は瑞野さんの方だったようだ。