Fahrenheit -華氏- Ⅲ

座敷様式の個室のテーブルに刺し盛りをはじめとする唐揚げやだし巻き卵と言った居酒屋定番の料理が並びだした。途端にアルコールと油の匂いで小さな部屋が満たされた。


瑞野さんはあまり食欲がないのだろうか、今はスライストマトの一部を箸でつついていて食事が進んでいない。


一方の二村さんは歳相応の食欲を見せていて(てか何気にこの人と呑みに来るの初めてだ)大きな唐揚げを頬張っている。


その様子を眺めていると、二村さんとバッチリ目が合ってしまった。


「そんなに睨まないでよ~柏木さん。昼間のこと、まだ怒ってるの?」と二村さんは昼間あたしたちが派手に言い合ったことをまるで気にしていないようにへらへらと笑った。演技なのかどうか分からず


「睨んでいません。私はいつもこうゆう顔なので」と言い、


「昼間?何かあったの?」と葵さんは全て知っているけれど知らないフリで「だし巻きうまいよ~瑠華ちゃんどうぞ」とだし巻き卵を取り分けてくれる。


「ありがとうございます。二村さんとはちょっとした衝突をしたぐらいです」


「衝突?」とここで瑞野さんが顔を上げた。その顔色は若干青白く感じた。雰囲気がキマヅイと言った感じじゃなく、体調が悪そうに見えた。


「まー、よくある意見の食い違い的な?」と二村さんは濁す。瑞野さんにハッキリと言えないのはそれが彼女が関係していることだからか。


「まー、空汰と瑠華ちゃんて見るからに合わなさそうだしな~、俺みたいなアホと一緒に居た方が居心地良いんだよね~」葵さんはハハハと明るく笑って「追加注文どうする~?ビール空じゃん」とわざと肩と肩が触れ合うぐらいあたしと距離を詰めてメニュー表を二人で覗き込んだ。

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