Fahrenheit -華氏- Ⅲ
だけど言えることは一つ。
あたしは瑞野さんの両肩に手を置き、真正面から瑞野さんを見つめた。
「あなたの意思は分かりました。私ごときが覆せない程強いものだと言うことを。ならば、あなたはまずあなたとお腹の子のことだけを考えてください。あなたたち二人の親子のことは私が全力でサポートいたします」
瑞野さんが大きな目をまばたきさせる。
「けれど私だけでは力が及ばないこともあります。私は私以外二人だけに相談しようと思います」
「さっき誰にも言わないって…!」
瑞野さんがあたしの腕に縋ってきた。力強い手で爪が食い込むのがブラウス越しに伝わってきた。
「安心してください。絶対に二村さんの耳に入らない人物です。私を信じて」
「でも……」
瑞野さんは血走った目であたしを睨んできて、あたしはそれ以上の視線で瑞野さんを睨んだ。
「しっかりなさい!
あなたの子供を守れるのはあなたしかいないんですから!
縋れるものは縋って、利用できる者は何でも利用しなさい!これから先子供を一人で産んでも一人で育てられるわけないのですから、その予行演習だと思って」
あたしに一喝されて瑞野さんの肩がびくりと揺れる。
「大丈夫です。父親のことはその二人には言わないつもりです。あくまであなたが身重だと言うことだけを知ってもらうだけです」
「でもその二人って……」瑞野さんがの目が不安そうに揺れる。
「あなたの味方であることは間違いないです。明日のお昼に時間を取ってもらえませんか。お二人に会わせます」
「……信じて……いいんですか…」
瑞野さんの目が探るように目を上下する。
「信じるか信じないか、はあなた次第です。お腹の子供を守りたいのならまず私の言葉を信じることから始めませんか?」
ここに来てあたしが微笑むと、瑞野さんの肩から力が抜けるのが分かった。
「――――はい……お願い……します」
瑞野さんは顔を項垂れ、再び泣き出した。
あたしは彼女の頭を抱き寄せ、
「大丈夫です。私を信じて」
そっと囁くと、瑞野さんはまたも声をあげて泣いた。
こんな風に―――
子供の為を想って純粋に泣ける人に―――あたしはなんぴとたりとも手を出させない。
特に二村さん。
あなたには絶対に。