Fahrenheit -華氏- Ⅲ
先の見えない闇の中、一歩も踏み出せない。後ろを振り向くと、瑠華と過ごした輝かしい記憶だけがキラキラ輝いている。後ろを振り向きたくなる。でも、それはあくまでも記憶で“過去”だ。
「……しょうがないだろ。俺だって別れたくて別れたわけじゃねぇ」
俺が静かに反撃にでると
「…じゃぁ」紫利さんは何か言いかけたけど。俺はそれを遮るように
「何も知らない紫利さんに言われたかないよ」あれだけ紫利さんに『ガキ』呼ばわりされたってのに、またもガキっぽく、しかも言い訳っぽくなった。
「ある程度なら知ってるわよ。少なくとも彼女の気持ちぐらい」
紫利さんは目を細め、俺は目を開いた。
瑠華の―――
気持ち?
「瑠華は何て……?」
「そんなことは自分で聞いて。因みに私は彼女から何も聞いてないわ。ホントのことよ」紫利さんは大きなため息をついて、苛々した面持ちで『降』パネルを連打する。
その端正な横顔に「それが出来ないから困ってるんじゃないかよ!どうすればいいだよ俺は」ほとんど怒鳴るような口調になって、思わず紫利さんの両肩を掴む。
久しぶりに触れた紫利さんの肩は、記憶に濃い。
骨が細くて、着物が似合う少しなで肩で――
その肩に置かれた手を紫利さんは鬱陶しいものでも払うように払いのけ、まぁ俺もそれ程力を入れてなかったし。
「それは自分で、いいえ二人で乗り越えなきゃ意味がないわ。
じゃないとまた繰り返しよ」
俺と瑠華
二人で―――……