Fahrenheit -華氏- Ⅲ
紫利さんは俺に喝を入れに来てくれたのか。
前の遊び相手に、そんな面倒なことしない。
だとしたら―――
瑠華のため?
瑠華は苦しんでいる―――?
俺には分からなかった。仕事しか、単なる上司と部下と言う関係になってしまって、それ程深く彼女のことを気に掛けられなかった。
いや、本当は気になっていたけれど、瑠華の本心に気付かなかった。
瑠華の心は
どこへ向かったのだろう。
俺は―――ハロウィンパーティーのとき、心音ちゃんにマックスを呼び寄せるように言った。
俺が離れて行っても帰る場所がある、と言う意味で。あいつなら形だけでも瑠華のことを愛するだろう。二人の愛の結晶ユーリと言う存在もあるわけだし。
俺と別れて居づらくなっても、NYに帰れば愛する愛娘と会える。
でも
それは独りよがりだったのかもしれない。
今更ながら、俺はバカなことをした―――と気づいた。
俺は紫利さんに殴られた頬を撫でさすり、以前、心音ちゃんに打たれたときのことも思い出した。
『何があっても瑠華を守るって言ったのは嘘?』
嘘―――じゃないよ、言い訳かもしれないけれど…いいや、完全な言い訳だ。
瑠華を守るため―――と思っていたけれど、このまま黙って引き下がるわけにはいかない。