Fahrenheit -華氏- Ⅲ


改めて葵さんと二人きりになった。


「で?どうしたんですか、二村さんと喧嘩でもしたのですか」と葵さんに聞くと


「そっちこそどうなのさー、やけに遅かったジャン。ま、瑠華ちゃんがミミちゃんを引き付けて時間稼ぎするって言ってたけど~それにしても」と唇を尖らせる。


「ちょっと熱もあったみたいですし、この個室より少し広い待合室のような所で座って様子を見ていただけです」


完全なる嘘を葵さんはあっさり信じたようで


「空汰のヤツさー、ムカつくこと言うんだよね」と残り三分の一ほどになったビールを一気に煽る。


「ムカつく、とは?」


「瑠華ちゃんの悪口……」


まぁ想像はできたけどね。


「あ、でもちゃんと録音したから。今聞く?」と葵さんはジーンズのポケットに忍び込ませていたスマホをテーブルに置いた。


あたしは小さく頷いた。


「あんまいい話じゃないから気を悪くしないでね」と葵さんは前置き、スマホの録音を再生させた。


葵さんの録音は最初は世間話と言う感じで始まった。


『で?柏木さんと付き合ってるの?お前』と割と早めに二村さんが本題に入ったのはあたしたちがいつ戻るか分からないから、なのだろう。


『うん♪付き合い立てほやほや~』葵さんの明るい声が答える。


『へー、それはフリじゃなくて本気で?てか柏木さん、俺と勇馬が繋がってるって知ってるのによく付き合ったよな。もしかしてお前俺に嘘ついてね?それか利用されてるとか』


疑われている?利用されてる?まぁ計算のうちだけど。


『空汰は疑り深いなー、俺と瑠華ちゃんに何の利害があるっての。それにこんなバカ利用したって瑠華ちゃんに何の得があるのさ~』


お金ですが。と思わず突っ込みたくなった。


しかし葵さんはその後うまく話を逸らした。


『最初はフリでもいいか~とか思ったケド瑠華ちゃん俺のどツボ』


『まぁ顔だけならな。お前の好みかもしれないけど、あの女可愛い顔してえげつないよ。お前騙されて下手うつなよ』


『瑠華ちゃんはお前から聞いた話と全然違うよ。優しいし、怒ったり拗ねたり、そこがまた可愛いって言うかぁ』葵さんの声はここに来て少しだけ真剣さを滲ませていた。


怒ったり?拗ねたり?


まぁ怒ったことは何度もあるけれどあたしは一度も葵さんの前で拗ねたことはありませんが、と白い目で見ると葵さんは「あはは~ここはちょっと大げさに」と苦笑い。


そこから二人の付き合いのなりそめの話に移った。葵さんは先ほど公言した通り水族館の後自分から告白したと伝え、二村さんは納得がいっているのかいってないのか一応は頷いている。

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