Fahrenheit -華氏- Ⅲ
TRRRR…!
電話の着信の音ではっとなった。
びくりと体全体が覚醒に入り「ここは?」と言う意味で辺りを見渡すと、まだタクシーの中で。でも隣に葵さんの姿は無かった。
「あの……一緒に乗ってた人は…」
と運転手さんに聞くと
「先ほど下車されましたよ」とそっけない答えが返ってきた。
葵さん―――……さっきのは夢?
いや、考えてる暇などない。鳴り続けるスマホを取り出すと
着信:心音
となっていて慌てて電話に出た。
「Hi Darling.」
『Hey honey♪』
心音は相変わらず元気そうだった。と言うよりも少し興奮してる感じがした。
「何かあった?」
『何も。ただジェイク・ダリスの株動いていないでしょ』
「ええ、けれど何故それを?」
『心音さまがちょーっとばかり脅かしたから』
脅した?
「何したの?」額に手を置いて小さくため息。
心音には前回ジェイクが結婚の話を持ち掛けてきたことさりげなく聞かせておいた。それを断ったから今回ジェイクから手を引かれると思ったけれど。それより早く心音が手を回してくれたことはありがたい。ありがたいが…きっとまともなやり方ではない気が…
『彼と寝たわ』あっさりと言われ、想像以上の言葉にあたしは思わず
「寝……!?」
思わず口に出してしまって慌てて口元を覆った。タクシードライバーは一瞬迷惑そうにバックミラーであたしの方をちらりと見てきたが、露骨に目が合うとさっと逸らした。
あたしは思わず身を屈めると小声で
「どうゆういきさつでそうなったのよ」と聞いた。
『簡単なことよ。この心音さまの方からコンタクト取ったの。勿論餌を出してね。瑠華はあたしの親友。だったらあたしの会社にも出資しないか?って』
「そんな……!心音の会社を切り売りするなんて!」思わず声が大きくなり、またもドライバーが迷惑そうにちらりと振り返ったがその視線を無視した。
『平気よ。あたし数学得意だから。あいつに会社を乗っ取られる株を譲渡したわけじゃないわ。ただし、成功したらそれなりの報酬は払うけれど。てかあいつにとってあたしなんてただの小遣い稼ぎ。大してカネに執着してないみたいだったど、”あたし”に興味を持ってくれたみたい。瑠華の友達だって言ったらあっさりあたしのこと受け入れたわ』
「あのジェイクと?心音が満足するとは思えないけど」
『そ?まぁテクはそこそこだけどあと腐れなく”大人の付き合い”ができたわ。顔も中身もレモンみたいにさっぱりした男♪』
そう言えば心音は前そんなこと言ってたような。逆ナンパしたイーサンは道端に落っこちてるガムみたいに粘っこいとボヤイてたから、まぁ?ジェイクはその辺あっさり……してるのか?
てか、そこ??あたしは思わず突っ込みたくなった。