Fahrenheit -華氏- Ⅲ
俺のすぐ後に出勤してきた瑠華も絶対にメールを見てるであろうに、こちらは顔色一つ変えずたぶんメールチェックの続きをしている。
「瑠……柏木さん!これって!」
流石に瑠華に聞いてみると、瑠華は顔の表情一つ変えず
「ああ、異動のことですか」とあっさり。
「知って、たの……」
「知っていたも何も私が会長に頼みましたから」
瑠華が!?頼んだ!?
「な、何で!」
俺が瑞野さんの存在を避けている、と知っている筈。なのに何故近づける真似を――――?
それとも自分はピンクの髪の男とうまくいってるから瑞野さんとくっついて欲しいと言う願い?
無言で目をまばたいていると
「向こう(アメリカ)がクリスマス休暇に入る直前ですので、仕事の量が倍増します。そして明けてからもしばらくは繁忙期。人手が足りなかったからです」瑠華は相変わらず淡々としたリズムを崩さない。それは最初から用意されていたような原稿を読み上げているようにも思える。
「でも、瑞野さんだよ!?秘書課の!あっちだって有能な瑞野さんを手放したくない筈じゃ」
「有能だから、ですよ。彼女の能力を買った私が会長に瑞野さんをお借りすること直訴しました」
てことは、昨日の昼休憩―――瑠華が親父と綾子と瑞野さんと出かけて行った理由はそこにあるってことか。
「で、でもどれだけ忙しくても三人で頑張ってきたんだよ……」俺の言葉は尻すぼみになった。分かってる。こんなこと言って瑠華の心を動かせないって。
「部長、会社は仲良しクラブではありません。三人にこだわった所で仕事が滞ったらどうするのですか。本末転倒です」
そう、だよな……瑠華の言ってることは分かる。俺だってピンチになったらきっとこの手を使うだろうが、今は言う程忙しいわけじゃない。十分三人で乗り切れる量なのに。
何だってこの時期に。