Fahrenheit -華氏- Ⅲ
急に近づけられた距離にドキドキ……してる場合じゃないって。
瑞野さんがあざといって?
シロアリに比べりゃ全然だ。
てか瑠華はどんな答えを望んでいるのだ?度々俺と瑞野さんが一緒に居るところを目撃されてるからな。瑠華だってホントは瑞野さんのことあざとい、って思ってるかもしれないが…ぐぁ!わからん。
「う、受け取り方次第じゃない?俺はそうは思わないけど…」とぶなーんな答えを返すと
「可愛い女の子が可愛い恰好をしているのが何故悪いんですかね」瑠華は俺の想像してなかったことを言いマイペースにインスタントコーヒーの瓶にズボっとスプーンを入れる。それが瑠華の怒りのように思えた。
「へ?」
俺が目をぱちぱちさせていると
「部長は私をあざとい、と思いますか?」質問を変えられ
瑠華が?あざとい??
「あー、それはないない、ぜってーない」俺は素全開で全否定。
あざとい、って言うか怖い。勿論それは言えないが。
「そうですか」瑠華は納得したのか納得してないのか、それとも瑠華の中でまた彼女の世界が始まっていてテーマは『あざとい』なのか?
そんなことを考えていると、
「あの……あたしも飲み物を」とおずおずと瑞野さんが顔を出した。
ぅお!何てタイミング。
瑞野さんの手には淡いピンク色をしたマグカップが大事そうに包まれていた。
「お作りして運びます。瑞野さんは戻っていてください」
ピシャリ、と言った感じは慣れないと『怖い』と思う態度だが瑞野さんは気にした様子がなく「いえ、そこまでやっていただくわけには」と引き下がらない。意地で言っているわけではなさそうだ。顔に生真面目な性格が浮かんでいる。きっと本心から言っているのであろう。
けれど瑠華は
「大丈夫です、戻っていてください」と再び言い、瑞野さんもそれ以上何かを言うことはなくマグカップを置いて大人しく引き下がっていった。