Fahrenheit -華氏- Ⅲ

瑠華と瑞野さんが昼食に出かけた。


「はー、緊張したぁ」


瑞野さんが持参のお弁当を下げて瑠華と社食に向かうのを見届け、佐々木が大きなため息。


まぁ俺も緊張したな。急に力が抜けた。


「お前、いっとき瑞野さん狙いじゃなかったか?これってチャンスじゃね?」だから瑠華のことは諦めろ~~諦めろ~、と心の中で唱えながらイシシと下卑た笑い声をあげると


「もー!からかわないでくださいよ~、前の話です」


前の話……ってことは変わらず瑠華のこと狙ってるってこと??


お前は身の丈に合う彼女を作れ!(←結構ヒドイ)


でも、瑠華と瑞野さんが席を外している今ってチャンスじゃね?


「ちょっと用を思い出した。秘書課に行ってくる」俺が立ち上がると


「秘書課?」と佐々木が首を傾げた。


「ああ、急ぎの案件の稟議の決済下りたか確認」


「ああそうですか」と佐々木はあっさり納得。


とは言ってもなぁ、秘書課に綾子だけいればいいんだけど。親父も居たらなー…って、そっちの方が手っ取り早い?


と考えながら秘書課に向かうと、会長室では親父が不在。綾子一人だけがリーダー席に座って何かの書類を真剣に眺めている最中で


「よ、お疲れ」と声を掛けると綾子が顔を上げた。


「お疲れー」綾子はちょっと疲れを滲ませた声で一応は挨拶してくれた。


「親父は?」


「今外出中よ。会長に用があったのなら14時以降にして」とそっけなく言われ


「やー、親父って言うより、お前に?用があって来たんだよね」


「私に?」綾子が訝しむように目線を上げた。


「何を聞きに来たのか分かってンじゃねーの?何で瑞野さんを出向させた」


綾子のデスクに両手を付き座ったままの綾子を覗き込むと、綾子は目だけをあげて


「柏木さんから聞いてない?外資が人手不足だって」


「聞いた。でも何でわざわざ秘書課の瑞野さんが?」


まるで口裏を合わせたような発言に俺も被せるように質問すると綾子は鬱陶しそうに顔の前で手を振り


「私だって分からないわよ。でも会長がOKって言ったのよ」


直観―――綾子は何かを隠している。そしてそれは親父もきっとそうだ。


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