Fahrenheit -華氏- Ⅲ
マナミさん―――?と見知らぬ男性が二人用のテーブルに座っていた。
「偶然!?びっくり~!柏木補佐もデートですか?」とマナミさんは手を叩いて嬉しそうにしている。
「え、ええ。まぁそんなところです」
はっきりと”デート”とは言えないのはやはり啓にやましさがあるからだろうか。
「あ、紹介します。こちらさっき話したあたしの彼氏で」とマナミさんは奥に座った男性を手で指し示した。年齢は30代前半、そこそこのブランドのスーツに嫌味じゃない程度の時計。髪はラフにセットされていていかにも爽やかそうな顔つきをした男性だった。
マナミさんから聞いた印象とは少し違って心のどこかでちょっとほっとした自分が居る。
きちんとした企業にお勤めされてる印象が濃い。
「マナミの…?」その男性がマナミさんとあたしを見比べて
「あ、あたしの先輩…?みたいなひと」とマナミさんがあたしを紹介して「正確には部署が違うのですが同じフロアで働かせていただいています柏木です」と頭を下げると「伊藤です」と男性も立ち上がり頭を下げ笑顔を浮かべた。
さりげなく、そしてスマートな動作―――は、こ慣れている感じに受けた。
「柏木補佐、ここで会えたのも偶然ですしご一緒にどうですか?」とマナミさんに誘われ
「いえ、流石にそれはデートのお邪魔をするわけにはいきませんから」と断ると
「大丈夫ですよ、マナミの大切な人とは親しくなりたいし」と伊藤と名乗った彼がにこにこ。あたしの答えも聞かずにウェイターを呼び寄せると四人席へと移動できるよう指示を出していた。少し強引っぽさを感じたけれど『仲良くなりたい』と言う言葉からの行動だと思えば不自然ではない。
「あの子、瑠華ちゃんの…後輩?」と一通りの挨拶を見送った葵さんがマナミさんを見てこそっと耳打ちしてきて「ええ、正確には私の部署の後輩ではありませんが、親しくさせてもらってます」とこちらも小声で答えると
「へー、可愛い子だね♪
でもオトコの方は何か胡散臭そうだけど」
やはり
うさん臭さで言うと葵さんもだが、その彼が同じ匂いを感じ取ったと考えれば納得だ。
ええ、私もそう見えます。
とはこの時点では言えなかった。