Fahrenheit -華氏- Ⅲ

この時季だと言うのに、いえこの時季だからか、クリスマスイブやクリスマスが本番なのか店はあたしたちが四人席に移動しても大丈夫なぐらいの空き具合だったのが幸か不幸か。


すでにマナミさんたちが注文したキッシュやニース風サラダの他、あたしたちはレモンクリームのニョッキと、マルゲリータピザを注文した。料理を考えると通常ならワインだが、その気になれなくてクラフトビールにした。葵さんも同じ。


「マナミは会社ではどうですか?うまくやってますか?」と伊藤と名乗った男性がちょっと心配そうにあたしに聞いてきて


「ええ、とても良くしてもらってます」と淡々と答えると


「もー、涼介さんったら、仕事の話はしないでよ」とマナミさんがちょっとふくれる。


伊藤 リョウスケと言うのがフルネームなのか。


「だってマナミ、意外にドジなところあるし」


伊藤さんは笑いながらマナミさんの脇を小突く。


普通に見てたら付き合い立てのラブラブカップルのように―――見えるが。


二人をまじまじと観察している中、葵さんは料理の写真をスマホで一生懸命撮っている。


「彼、カメラマン?」と伊藤さんが葵さんを見下ろしてちょっと鼻で笑った。


「こう見えてフードコーディネーターです」とあたしは嘘をついた。葵さんは一瞬びっくりしたように目を丸めた。だって葵さんが写真を撮ってるのはSNSでデートしたって言うことを載せるためにだけあって。


「そうそ、仕事柄、変わった料理が出てくると気になるっていうか」と葵さんが話を合わせてくれた。


「変わった料理って、この辺のカフェやバルでは普通だと思うけど?」と伊藤さんがまたも突っ込む。


何なの、このひと。

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