Fahrenheit -華氏- Ⅲ
何かの雑誌を手にして立っていたのは
「佐々木さん?」
あたしは目をぱちぱち。
佐々木さんはあたしの手にしていた漫画を見て目をぱちぱち。
「あの…これは…」
言い訳しなくてもいいのに、何故かそれを元あった場所に戻そうとすると同時、佐々木さんも持っていた雑誌をサッと彼の背後に隠す。
「「………」」
お互いキマヅイ雰囲気になってしまった。
けれどその雰囲気を破ってくれたのは佐々木さんだった。
「それ、僕も好きです。ちょっとえぐいところとかありますけど面白いですよ」
「そうなんですか。大丈夫です、私スプラッタとか大丈夫な方なので」
佐々木さんの言葉を聞き、戻した漫画をまたも手に取った。佐々木さんはあたしがこの漫画を手に取っていたことをさほど気にした様子はない。
「ところで佐々木さんは何を?」
気にしてない素振りは得意だった。佐々木さんがいやらしい雑誌を手にしてたとしても、別に何とも思わない。何となく流れで聞いた。
「僕……ですか…?」
佐々木さんはおどおどとした様子で、けれど隠しきるつもりはないのか、おずおずと雑誌をあたしに向ける。
いやらしい雑誌かと思いきや、普通の男性ファッション誌だった。
「何で隠すんですか」思わず聞くと
「いや……僕なんかがこんなの買ってるって、ちょっと不相応で…バカにされる…って言うか」と佐々木さんが口ごもる。
「バカになんかしませんよ。不相応?そんなことないと思いますが?誰が何を買おうが自由じゃないですか。例えば私がこの漫画を買うことと一緒で」
漫画本を目の前で掲げると、佐々木さんの顔がぱっと華やいだ。