Fahrenheit -華氏- Ⅲ
そんなことを考えていると、噂していた本人たち瑠華と瑞野さんが喫煙ルームの前を通っていった。
二人は何やら楽しそうに(瑠華は相変わらずの無表情だから分からない)が通り過ぎて行った。きっとこの先にあるエレベーター前の自販機にでも向かうつもりなのだろう。(因みに自販機はこの喫煙ルームとエレベーターの隣にもう一台設置されている)
「と言うわけで、私は一応忠告したわよ?柏木さんは何も知らないみたいだから、彼女には何も言わないでよ。元旦那と寄りを戻されたくなかったら自分で何とかしなさい」
綾子は小さくなったタバコをステンレスの灰皿に押し付け、さっさと喫煙ルームを出て行ってしまった。
ちょっ…ちょっと待て!
俺の聞きたい事まだ全然知らされてないのに!
爆弾だけ投下して勝手に去るなよ!
未練がましい手を宙で彷徨わせてると
「さっきの見た!?」
「見た見た!外資の柏木補佐と瑞野さんだろ!」
「やっぱすっげぇ可愛いよな、二人並んでるとサイコー!あ、木下リーダーだ、あの人も美人だし♪この会社に入れてラッキー」
「ラッキーだけど三人とも俺らには高値の花って言うかぁ。あーあ、いいなぁ神流部長は……」
と広報部と思われる男の社員が噂話をしながら入ってきて、中に居るのが俺だと気付くと慌てて口をつぐんだ。
俺は聞いてないフリで「お疲れ様」と軽く手をあげた。
ぜんっぜん!良くない!
瑠華以外だったら持って行っていいぞ、お前ら。綾子は気ぃ強いオトコ女だし、瑞野さんはもしかしてすっげぇ悪女かもしれねぇ。
お前らの手に負える代物じゃねーぞ、と心の中でブツブツ。