Fahrenheit -華氏- Ⅲ
けれど
佐々木さんは―――気を使ってくれたのだ。
「ありがとうございます」素直にお礼を述べると、佐々木さんはちょっと顔を赤くして、慌ててカフェオレを口に含む。
「疲れてるときは糖分が必要ですね」と佐々木さんはぎこちなく笑った。
隣の席で女性二人が「可愛い~!美味しそう」と言ってスマホであちこちの角度で写真を撮っていた。
SNSでアップするつもりなのだろうか。確かにこのパンケーキは見た目も華やかだ。
「佐々木さんはSNSやってないのですか?」思わず聞くと
「やってないです。自慢できる生活がないので。一応登録だけはしてあるんですけど、たまに友人のを見たりぐらいしかしませんね」と苦笑い。
「柏木さんは?」と聞かれ
「私もしていません」とハッキリと答えた。
「そんな感じ、します」
「そう言えば、こないだ“匂わせ女子”と言う言葉を聞きました」
「ああ…」佐々木さんは苦笑い。「僕はSNSやってませんが、こないだ大学時代のツレがそんなこと話してました。別れた彼女が新しいオトコを匂わせてるとか何とか…体の一部を見せて写すってことですよね」
「そうみたいですね。私は何故SNSをやるのかそれ自体分かりませんが」
「一種のコミュニケーションの場ですよ。大げさかもしれませんけど、生存確認とか?最近連絡してないけど、あー元気なんだな?とか?」
「なるほど」
「あとはマウントの取り合いですかね。あなたたちより私たち(或は俺たち)の方が充実してる、って自慢みたいな」
なるほど、SNSは奥が深いのね。
「あとは情報収集や意見交換ですね。例えば柏木さんが今日買った漫画の感想を言い合ったり、気が合うと頻繁にやり取りして、そう言うひとたちが集まって仲間みたいなものができたり、会ったり」
「緑川さんはやってるみたいですよ」
「あーやってそうですね」と佐々木さんは苦笑い。
「佐々木さんは登録されていると仰いましたよね。あなたのアカウントで緑川さんの私生活が分かる、と言うことですか」ちょっと身を乗り出して聞くと
「あ、はい…まあ、鍵を付けてないと誰でも閲覧はできますが」
「見せてください」あたしが言うと佐々木さんは意外そうに目をまばたき、自身のスマホを取り出した。