Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「緑川さん…アカウント名は何で登録してるのかな…本名かな」
と言いながらスマホを操っている。
「たぶん本名だと思います」何せ会社の女の子たちが簡単に閲覧できるぐらいだし。
「あ、ホントに出た」と佐々木さんはちょっと驚いたようにスマホを見せてくれた。
その画面は二週間程前の投稿で、背景は家の中と言った感じを受ける。自分で作ったのであろう料理がテーブルに並べられていてワインとオレンジジュースのグラスがオシャレに配置されていた。その画面の端っこに、確かに男性と思われる手が映っている。
恐らく二村さんだ。
「あれ……でも二週間前までは頻繁に投稿されてたのに、これが最後の更新ですね」
佐々木さんは首を捻る。
二週間前―――緑川さんがあたしに妊娠しているかも、と打ち明けてくれたときだ。
「因みに瑞野さんはやっているのでしょうか」と聞くと佐々木さんは怪訝そうな表情を作った。
「瑞野さん?アカウント名が分からないので、僕はそこまでは…」
と言うことは、瑞野さんは緑川さんのSNSを簡単に閲覧できる、と言う可能性も出てきた。
「遡って見て見ると……あ…!これ部長じゃないですか!?」
と佐々木さんが目を丸めてスマホ画面を見せてきた。
啓―――…?
あたしが画面を覗き込むと、バゲットサンドと…やはり男性と思われる手が映りこんでいた。
でも佐々木さんも気付くぐらい啓のタグ・ホイヤーの時計と彼が吸っている銘柄のタバコが吸いかけのまま灰皿に乗っていて…
「だいぶ前…二か月ぐらいですかね」と佐々木さんは目をぱちぱち。
「いつの間に撮ったんだか。著作権の侵害ですよねこれ。部長が気付いたら怒るだろうな~」
「それは無いと思います。その頃、緑川さんは元カレから復縁を迫られていて、揺れに揺れ動いてましたから、彼女の当てつけなようなものでしょう」
あたしがキッパリと言い切ると
「柏木さん…詳しいですね…」と佐々木さんはまたも目をぱちぱち。
「ええ、まぁ…成り行きで知ってしまったと言う程度です」ホントは啓から全て聞いていた、とは
言えない。