Fahrenheit -華氏- Ⅲ


走りながらあたしはもう一度村木さんに電話を掛けた。


どういったいきさつで物流本部の仕事を啓が請け負ったのか、は理由が判明したが事故の詳細は分からない、と言う。


ただ救急車で病院に運ばれた、と言うことだけが分かっている。何故村木さんがそれを知ることになったのかは、啓が最後に電話したのが村木さんだったから、と言うことだった。納品に遅れるかもしれないこと先方に伝えて欲しいと言うことだった。


車に乗り込み、来た道を引き返す。高速では50キロオーバーで飛ばした。気持ち的にはもっと飛ばしたかったが車が混み始めてきてそれが限界だった。


啓は事故が遭った場所に一番近くの総合病院に運ばれた、と聞いていた。滑り込むように指定された総合病院の駐車場に車を入れると、コートを着ることもせずバッグだけを引っ掴みあたしは走った。


『落ち着いて聞いてください―――』走りながら村木さんの緊迫した言葉が蘇る。


小ぎれいな病院は最近建て替えたのだろうか、これまた広い総合受付で「神流 啓人と言う男性が運ばれたと聞いたのですが」と慌てて聞く最中も


『交通事故に巻き込まれて―――』


最悪な出来事を想像して、あたしの全身から体温が奪われていく感じがした。






『好きだよ』








そう言ってくれたのに。


あの言葉だけを残して逝っちゃうつもりなの?


そんなの、酷い裏切りよ。


絶対、絶対許さないんだから―――





案内された緊急処置室の長椅子の前でこちらも仕事だったのかスーツ姿の村木さんがうろうろと歩いていて、完全な休みだろう佐々木もさんも駆けつけてきたようだ。佐々木さんは長椅子に腰掛け深く項垂れている。


「け……部長は……」あたしが佐々木さんを見ると、佐々木さんは力なく首を横に振った。



そんな―――……


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