Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「瑞野さんと言えば……食堂で相席したとき、瑞野さん気にしてました。『柏木補佐に嫌われてるかも』って」佐々木さんは苦笑い。
「僕は『そんなことないですよ、柏木さんはいつもあんな感じだから』って返しちゃいました。
でも僕、目で『この場に二人きりにしないでください』って訴えたのに、柏木さん僕がサンドイッチ欲しいのかと思ったんですよね~あの時…」佐々木さんは恥ずかしそうに頭の後ろを掻く。
「そう……でしたか。すみません一人残してしまって」あの時の視線はそう言う意味があったのか。
「い、いえ!実は…僕、あんまり瑞野さんと喋ったことが無いって言うか…人見知りな所があるんで、ほとんど喋ったことがない女の子だと緊張しちゃうって言うか……
なんか、かっこつかないですよね…」
佐々木さんはハハっと空笑い。
「その点、部長は誰が居ても臆することもなさそうだし、むしろ気に入った女の人には猪突猛進だし。イマドキ、肉食系って…って思うんですけど」佐々木さんは冗談を交えて笑う。
あたしは目をまばたき
「部長に―――憧れてるのですか」
ストレートに聞くと
佐々木さんは顔を赤くした。
「分かってるんです。僕なんか部長の足元にも及ばないって……ルックスやお金持ちとか、そんな見た目やバックグラウンドは勿論ですが
仕事に対しての情熱とか―――、努力とか」
佐々木さんはテーブルに置いた、今しがた買ってきた雑誌の袋に手を置く。
「あのひと何か…いつも一生懸命なのに、そんな努力を見せないで……だから男社員から評判が悪くて、影でひそひそ言われてるのに、全然気にしてなくて…いや、実際あのひとの場合ホントに気にならないタイプだと思いますケド。
僕は到底真似できません。人の目が気になるし、努力したら認めてもらいたいし」佐々木さんは苦笑い。
「だから部長のまっすぐな所―――好きなんです」
そう、
啓はいつだってまっすぐだった。
曲がったことを許さない。
だから―――真咲さんとの過去の出来事を……自分が自分を許せなかったんだ。
あたしは頭を振った。
真咲さんのことを考えるのは今は辞めよう。