Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「でも……最近の部長、何か元気なくて……単に疲れてるだけなのかなーとか思ったんですけど、流石に三日間引きずるってこと、あんまりなくて…ちょっと心配なんですよね。
あんまり食べてなさそうだし」
「そう―――ですか……私は全然気づきませんでした」
実際、啓のことをあまり見れなかった。
あたしは啓とちゃんと目を合わせたこと、この三日間であったかしら。
向き合って、意見を言い合って。
啓の不調を気付かなかったあたし―――
自分だけ辛いって……一人不幸を背負った気になってて、
啓のこと―――全然考えてなかった。
笑って欲しい。
全力で。
大きな犬が飛びついてくるような、あの無邪気な感じで。
ねぇ……こっちを向いて?
笑って―――
パンケーキを食べ終え
「佐々木さん、今日は色々ありがとうございました」と頭を下げ、何となく帰る雰囲気になった。
店を出る間際、佐々木さんが
「あの!僕、今日すごく楽しかったです。ありがとうございました」まるで子犬のような人懐っこい笑顔を浮かべていて
「あの」
あたしは言いかけた。
「はい…?」
「さっき買われた雑誌、不相応ではありませんし、そう言う風になりたいと努力することはいいことだし、そう言う人嫌いじゃありません。
けれど、私は佐々木さんは佐々木さんで良いと思います」
純粋で、素直で、人間の汚い部分を知っても受け入れてくれる優しさを持ってる―――そのままで、あなたは居て欲しい。
同時に、あたしの汚い部分を、このひとに見せたくない。そう思った。
「え―――……?」佐々木さんは目を開く。
「誰かの真似をするのではなく、あなたはそれだけで充分ステキです。努力すべきとしたら、今の現状維持だけでいいと思います」
あなたはあなたのまま。
あたしが入社したときから、佐々木さんだけ唯一変わらなかったひと。
好き、とか嫌いとかそうゆう偏見でものを見ないひと。(まぁ村木さんに対しては例外だけど)
ただ、まっすぐに―――その道を行って欲しい。
「ありがとうございます!」
佐々木さんは顔を真っ赤にさせ、
「ホントに、ありがとうございます。また明日会社で」
「ええ、また明日」
あたしたちは今度こそ別れた。
佐々木さんが居てくれて―――良かった。