Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「ねぇどうしたの?ユーリが居なくなったって聞こえたけど、迷子?」と心音がのんりびりと言いながら後をついてくる。
「わからない。でもNYと違って土地勘がないのよ!誰かに連れ去られたら」とあたしはクローゼットに掛かっている服を適当に出しながら早口で答えた。
「だったらあたしも行くわ。二人で探した方が効率がいいでしょ」と心音もようやくこの緊迫した状況を理解したのか、スーツケースを開けて中から服を取り出している。
マックスが送ってくれたGPSの場所は原宿になっていた。お酒も飲んでいたし、あの人の多い所であたしの車で行くことはできない。
着替えを済ませると急いでマンションの階下に降りるとロビーでウチヤマさんが居ると思ったら違う男性が居た。
見慣れない顔だ。
イシカワさんでもない。
「すみません、大至急タクシーを一台呼んでいただきたいのですが」とカウンターから身を乗り出すと
彼は戸惑ったように
「申し訳ございません、何号室のお客様でしょうか」と答えが返ってきた。
「4705室の柏木です」と言うやり取りももどかしい。苛立った顔つきが彼に伝わったのか彼は慌てて電話に手を伸ばそうとしたところに、バックヤードからウチヤマさんが出てきた。休憩時間だったのだろうか。それともあたしの怒鳴り声が聞こえた?
「柏木様、いかがされました?」
多くを語る暇がない。
「緊急事態なんです。至急タクシーを一台呼んでくださいますか」と勢い込むと、すでにタクシー会社に電話をかけていたであろう名も知らないコンシェルジュはもたもたと電話をしていた。それをウチヤマさんが奪うと状況なんて知らせてないのに大至急用意するように、と言うことを伝えてくれて正直ほっとした。
電話を切ると
「申し訳ございません、こちらまだ新人なもので」とウチヤマさんは丁寧に頭を下げ「タクシーは5分で到着致します。どうかお気をつけて」と再び頭を下げた。
「ありがとうございます、ウチヤマさん」
ウチヤマさんのおかげで助かった!